『THE WITCH/魔女―増殖―』とは?|どんな映画?
『THE WITCH/魔女―増殖―』は、韓国発のサイキック・アクションスリラーであり、「魔女ユニバース」と呼ばれる世界観の第2作にあたる映画です。
前作『The Witch/魔女』の流れを汲みつつ、全く新たな主人公と舞台で描かれる本作は、超能力、陰謀、逃亡劇といった要素が混ざり合い、緊張感と謎が入り混じる展開が続きます。
一言で言えば、「未知なる力に目覚めた少女が、暴力と真実の渦中で自らの運命を切り拓いていくバイオレンス×ミステリー・エンターテインメント」。
韓国映画特有の重厚な映像美とテンポ感、複雑な人間関係が交錯し、アクション好きからミステリーファンまでを惹きつける一本です。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | The Witch: Part 2. The Other One |
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タイトル(邦題) | THE WITCH/魔女―増殖― |
公開年 | 2022年 |
国 | 韓国 |
監 督 | パク・フンジョン |
脚 本 | パク・フンジョン |
出 演 | シン・シア、パク・ウンビン、ソ・ウンス、チン・グ、ソン・ユビン、チョ・ミンス |
制作会社 | Goldmoon Film、Peppermint & Company |
受賞歴 | 特筆すべき国際映画賞の受賞は確認されていませんが、韓国国内では興行的成功を収めました。 |
あらすじ(ネタバレなし)
とある極秘研究施設が壊滅し、ひとりの少女が血まみれのまま施設を後にする――。
名前も過去も知らぬまま、外の世界に踏み出した彼女は、山奥で暮らす心優しい兄妹と出会い、静かな生活を始める。
しかし、その異常な身体能力と超常的な力が周囲に知れ渡ると、彼女の存在を狙う複数の勢力が動き始める。
政府の特殊部隊、謎の傭兵集団、そして“魔女計画”に関わる旧勢力――彼女を追う理由は誰もが異なるが、彼女の中に眠る「何か」が争いを呼ぶ。
彼女はいったい何者なのか? そして、なぜその力を持っているのか?
過酷な追跡劇とともに、少女の正体と運命の断片が少しずつ明かされていく。
予告編で感じる世界観
※以下はYouTubeによる予告編です。
独自評価・分析
ストーリー
(3.5点)
映像/音楽
(4.0点)
キャラクター/演技
(3.5点)
メッセージ性
(3.0点)
構成/テンポ
(3.0点)
総合評価
(3.4点)
本作は新主人公を据えた「魔女ユニバース」第2章として、一定の完成度を見せつつも、プロット面では前作の既視感を引きずる部分が見受けられました。映像面では韓国映画ならではの緻密な美術とVFXが印象的で、音楽も世界観にマッチしており高評価。
キャラクター造形や演技は新人女優シン・シアの存在感が際立つものの、やや説明不足なキャラ配置も散見されます。メッセージ性はシリーズ全体でこそ深掘りされますが、単体ではやや薄め。テンポや構成は序盤こそ惹きつけますが、中盤以降に情報量と勢力図の複雑さが整理しきれていない印象を受けます。
全体としてはファン向けの続編として安定感を持ちながらも、さらなる飛躍には次作以降の展開が鍵となる作品です。
3つの魅力ポイント
- 1 – 圧倒的な“無垢”の存在感
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主演のシン・シアが演じる少女は、言葉少なながらも表情や仕草で「無垢」と「脅威」の両面を体現しており、観る者の想像力を刺激します。彼女の存在が物語のすべてを牽引し、言葉よりも空気で語る演技は、本作の静と動を象徴しています。
- 2 – 美学を感じさせるアクション演出
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暴力描写が多い一方で、アクションシーンには明確な“間”とリズムがあり、まるでダンスのような演出美が光ります。過剰な編集に頼らず、カメラワークや構図で魅せるスタイルは、監督パク・フンジョンの持ち味が如実に表れています。
- 3 – 拡張される“魔女ユニバース”の世界観
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前作を観ていなくても楽しめますが、シリーズを通して観ると、勢力構造や人物関係の深みがより立体的に感じられます。続編やスピンオフを想起させる“余白”が随所に仕込まれており、今後の展開を想像する楽しみも魅力のひとつです。
主な登場人物と演者の魅力
- 少女(シン・シア)
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名前も記憶も持たない“少女”を演じたのは、本作が映画デビューとなる新人女優シン・シア。セリフが極端に少ない役どころながら、目線や呼吸、佇まいのみで観客を圧倒する存在感を放つ。無垢でありながらも圧倒的な力を秘めたミステリアスなキャラクターを、驚くほどの説得力で演じきっている。
- ギョンヒ(パク・ウンビン)
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山奥で弟と暮らす心優しい女性ギョンヒを演じたパク・ウンビンは、少女にとっての初めての“外の世界”を象徴する存在。静かで芯のある演技で、観客に安心感と共感を与える。主人公との関係性が、物語に人間味とあたたかさを添える重要な役割を果たしている。
- チョ・ヒョン(ソ・ウンス)
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冷徹でプロフェッショナルな暗殺者チョ・ヒョン役のソ・ウンスは、クールなルックスと緊張感ある動きで強烈な印象を残す。過去を感じさせる視線と、躊躇のない攻撃性のギャップがキャラクターに深みを与えており、劇中でもっとも“目が離せない存在”のひとり。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
スピーディーで明快なストーリー展開を期待する人
過度な暴力描写や血の演出が苦手な人
前作を観ていないと内容が分かりにくいと感じる人
登場人物が多く複雑な人間関係を整理するのが苦手な人
リアル志向のドラマやヒューマン要素を重視する人
社会的なテーマや背景との関係
『THE WITCH/魔女―増殖―』が描く物語は、単なるフィクションの枠を超え、国家権力と人体実験、管理社会への批判的視点を含んでいます。
作中に登場する極秘研究施設や“魔女計画”は、現実世界における軍事研究や遺伝子操作、人工知能による人間支配といった議論と地続きにあります。特に、「何者かによって創られた存在」が自我を持ち、社会との摩擦を起こしていく様は、アイデンティティの喪失や他者による管理に対する不安の象徴とも受け取れます。
さらに、少女の存在をめぐって複数の勢力が争う構図は、現代の情報戦争や資源争奪、政治的陰謀を連想させる要素も多分に含んでいます。暴力が日常化した中で「人としてどう生きるか」という根源的な問いを、あえて言葉にせず空気感で提示する点も本作の特徴といえるでしょう。
また、シリーズ全体を通じて描かれているのは、“個の力”が国家や組織という大きな枠組みに翻弄される構造です。これは、現代社会における個人と社会の関係性を象徴的に映し出しており、韓国社会に根差す格差や抑圧構造を反映した側面も感じられます。
これらのテーマは必ずしも明確に語られるわけではありませんが、背景に込められた社会的比喩を意識することで、エンタメ作品としてだけでなく、より深い鑑賞体験を得ることができます。
映像表現・刺激的なシーンの影響
『THE WITCH/魔女―増殖―』は、韓国映画特有のクオリティの高い映像美と、鋭利かつ冷徹なバイオレンス描写が特徴的な作品です。
撮影には自然光を巧みに活用したロケーションが多用されており、少女の“無垢さ”と対比するかのような美しい田園風景や森の中の描写が、静謐で詩的な印象を生み出しています。一方で、施設跡地や追撃戦のシーンでは、濃い影と狭い構図が緊張感を高め、画面のすみずみにまで緊迫した空気が漂います。
音響面でも、静寂と轟音を大胆に切り替えることで、観客の感情を揺さぶる演出が随所に見られます。特に、アクションシーンにおける銃撃音や骨の軋むような効果音は、リアルかつ迫力があり、観る者の“身体感覚”に訴える演出として機能しています。
ただし、本作には流血や肉体破壊を伴う暴力描写が多く含まれており、視覚的にも強いインパクトがあります。カメラが容赦なく残酷な描写を捉える場面もあり、心身の不調を抱える方や刺激に敏感な方には注意が必要です。
性的な描写はほとんど見受けられないものの、人間の“異常性”や“暴力性”を象徴的に映す演出は、ホラー的な要素として作用することもあります。そのため、本作を鑑賞する際は、単なるアクション映画としてではなく、心理的・身体的に“試される”映画としての側面も認識しておくとよいでしょう。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
本作『THE WITCH/魔女―増殖―』は、2018年に公開された韓国映画『The Witch/魔女』の続編にあたります。「魔女ユニバース」シリーズ第2作として構成されており、同一世界観の中で新たな主人公と物語が展開します。
前作『The Witch/魔女』では、施設から脱走し“普通の少女”として生きる主人公ジャユンが、突如として現れる謎の追跡者たちと対峙し、自身の力と記憶に向き合う姿が描かれました。本作と前作の物語は直接的な連続性を持っていない部分もありますが、世界観や登場勢力が重なっており、シリーズとしての繋がりは明確です。
そのため、可能であれば鑑賞順としては前作 → 本作の順で視聴するのがおすすめです。特に前作の主人公ジャユンが登場するシーンや、勢力関係の理解が深まることで、より楽しめる構成になっています。
現時点では原作となる小説や漫画は存在せず、完全オリジナル脚本による映画シリーズです。ただし、今後メディアミックスとしてスピンオフやドラマ展開の可能性も示唆されており、シリーズとしての広がりが期待されています。
類似作品やジャンルの比較
『THE WITCH/魔女―増殖―』が属するのは、SFサスペンス×バイオレンス×青春という複合ジャンル。その類型として、いくつかの印象的な類似作品が挙げられます。
『The Witch/魔女』(2018年)は当然ながら本作の前作であり、世界観や組織構造など多くの要素が共通しています。ジャユンという別の少女を主人公に据えた物語で、キャラクターや能力の見せ方は本作と対照的でもあります。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、同じく韓国製作のスリラー映画。感染系というジャンルの違いはありますが、疾走感や人間の本性を描く点では共通しており、重厚な映像表現を好む人には相性の良い作品です。
『呪詛』(台湾・2022年)はPOVスタイルのホラー作品ですが、“知られざる力”や“少女と呪い”といったテーマ的には接点があります。視覚的恐怖よりも精神的恐怖に焦点を当てており、ホラー寄りの心理スリラーとしての参考例になります。
『ウィキッド ふたりの魔女』(2025年公開予定)は、まったくジャンルは異なりますが、“魔女”というモチーフを新たな視点で描く作品として注目です。ミュージカル仕立てのファンタジーでありながら、魔女の孤独や葛藤という共通テーマを共有しています。
総じて、“超常的な存在をめぐる人間の葛藤”を扱った作品群には本作との接点が多く、スリラー/アクション/SF/ファンタジーを横断する作品が好きな人にとっては、いずれも鑑賞の価値がある一本と言えるでしょう。
続編情報
『THE WITCH/魔女―増殖―』は、韓国で展開されている「魔女ユニバース」シリーズの第2作目であり、その後の展開についても複数の動きが報じられています。
1. 続編の有無
2022年の本作公開以降、監督のパク・フンジョンはメディアのインタビューにて「第3作目の構想はすでにある」と明言しており、シリーズ化を視野に入れた長期的な計画が存在することが示されています。ただし、2025年7月現在、正式な映画続編の制作発表はされていません。
2. 続編のタイトル・公開時期
現時点でタイトルや公開予定時期などの具体的情報は未公開ですが、シリーズは少なくとも三部作構成を意図しているとの発言が繰り返されており、ファンの間では続報が待たれている状況です。
3. 制作体制(監督・キャスト)
第1作・第2作に続いて、監督・脚本はパク・フンジョンが継続予定とされており、魔女ユニバース全体を彼が統括する形を取るとみられます。主演については、引き続きシン・シア演じる“少女”の物語が軸となる可能性が高いものの、新たな視点人物の登場も示唆されています。
4. プリクエル・スピンオフなど
2024年8月には、パク・フンジョン監督によるスピンオフ的作品『暴君(The Tyrant)』が配信予定となっており、魔女ユニバースと世界観を共有するドラマシリーズとして注目されています。全4話構成で、Disney+での独占配信が決定しており、ファンにとっては世界観を補完する重要な作品となるでしょう。
このように、『THE WITCH/魔女』シリーズは今後も拡張が見込まれており、単発映画ではなく“ユニバース”としての連続展開に注目が集まっています。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『THE WITCH/魔女―増殖―』は、ただのバイオレンスアクションではなく、人間の本質や存在の意味に静かに問いを投げかける作品です。
名もなき少女が、言葉ではなく行動と存在感で自分の居場所を模索していく姿には、私たち自身の「私は誰なのか」「なぜここにいるのか」という根源的な問いを重ねることができます。管理される存在として生まれた彼女が、感情や他者との関係を通して“人間らしさ”を見出していく過程は、現代社会のなかで自己を確立していく私たちの姿とも重なります。
同時に、善悪が明確に線引きされないキャラクターたちの行動は、倫理や正義といった概念がいかに相対的であるかを突きつけてきます。誰が敵で、誰が味方なのか。本当に守るべきものは何なのか。そんな混沌とした世界で、少女はただ“生きる”というシンプルで力強い選択を続けます。
物語のラストで明かされる新たな伏線や勢力関係は、物語がまだ終わっていないことを静かに告げ、観る者の中に“続きを知りたい”という余韻と渇望を残します。
エンターテインメント作品としての迫力と完成度を持ちながらも、その根底には深いメッセージと哲学が横たわっている本作。「生まれ」と「選択」、「力」と「意思」、そして「孤独」と「絆」――これらのテーマが交錯する世界の中で、あなたは何を感じ、何を信じるでしょうか。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
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本作の最大の謎は、「少女は一体何者なのか?」という問いです。彼女の正体については明確な言及が避けられており、観客の想像に委ねられる余地が多く残されています。
まず注目すべきは、施設から唯一生き延びた少女の身体的特徴と戦闘能力です。明らかに人間の枠を超えた力を持ちながらも、感情や好奇心といった“人間らしさ”も持ち合わせている。これは単なる“兵器”として創られた存在ではなく、感情を備えた存在をあえて生み出した可能性を示唆しています。
さらに、彼女を追う各勢力の動機がすべて異なる点も鍵です。保護しようとする者、排除しようとする者、研究対象として確保しようとする者——それぞれの思惑が交錯する中で、少女という存在が“人間にとって何を意味するか”が試されている構図が見えてきます。
終盤で登場するジャユン(前作主人公)は、本作の少女とは異なる“完成品”のような存在として描かれます。この対比は、人間が人工的に創り出した「進化」の多様性と、「制御できない存在」への恐れを象徴しているようにも映ります。
また、ギョンヒとの交流によって、少女の中に芽生えた感情や保護欲求も重要なテーマです。これは本来「実験体」には不要とされる性質であり、人間の“不要なもの”こそが人間性を決定づけるという逆説的なメッセージが込められているのかもしれません。
あくまで明言は避けられていますが、少女の存在は“兵器”として創られた者が“人間”として生きようとする過程を描いたものであり、シリーズ全体を通して「存在とは何か」「魂とは与えられるものか、宿るものか」という哲学的な問いを内包していると考えられます。
ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)
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