映画『ペット』｜飼い主のいない時間に始まる“秘密の冒険”と絆の物語

『ペット』とは？｜どんな映画？

『ペット』は、イルミネーション・エンターテインメントが手がけたフルCGアニメーション映画で、都会に暮らすペットたちの“飼い主が留守中に何をしているのか”というユニークな発想から生まれた作品です。

舞台はニューヨーク。主人公マックスを中心に、個性豊かな犬や猫、ウサギなどの動物たちが繰り広げる、笑いと友情に満ちたストーリーが展開します。ペットたちの視点で描かれる日常と冒険は、子どもから大人まで楽しめるファミリー向けの内容となっています。

同じスタジオの『ミニオンズ』シリーズと同様に、ポップでテンポの良い演出とカラフルな映像が特徴で、一言で表すなら「ペットたちの秘密の世界を覗く、癒しとドタバタが共存するアドベンチャー・コメディ」です。

基本情報｜制作・キャスト／受賞歴・公開情報

タイトル(原題)	The Secret Life of Pets
タイトル(邦題)	ペット
公開年	2016年
国	アメリカ
監　督	クリス・ルノー、ヤーロウ・チェイニー
脚　本	ブライアン・リンチ、シンコ・ポール、ケン・ダウリオ
出　演	ルイス・C・K、エリック・ストーンストリート、ケヴィン・ハート、ジェニー・スレイト、エリー・ケンパー
制作会社	イルミネーション・エンターテインメント／ユニバーサル・ピクチャーズ
受賞歴	アニー賞長編アニメーション部門ノミネートほか

あらすじ（ネタバレなし）

舞台はニューヨークのアパート。飼い主ケイティに大切にされて暮らす犬のマックスは、毎日が幸せそのもの。彼にとっての一番の楽しみは、ケイティが帰ってくる瞬間でした。しかし、ある日突然、ケイティが新しい犬デュークを連れて帰ってきたことで、マックスの日常は一変します。

新入りのデュークとマックスの間には、すぐにライバル心が芽生えます。互いに自分が“この家の主役”だと譲らない二匹は、ある出来事をきっかけに街中へと迷い込んでしまいます。

都会の裏側で出会う野良動物たち、謎のウサギ・スノーボール率いる地下組織…。マックスとデュークは無事に家へ帰ることができるのか？そして、ふたりの関係はどう変わっていくのか？笑いと冒険、友情が交錯するペットたちの大騒動が始まります。

予告編で感じる世界観

※以下はYouTubeによる予告編です。

本編視聴

配信先で公開終了している場合がござますのでご了承ください。

独自評価・分析

3つの魅力ポイント

1 – ペットたちの個性が光るキャラクター設計

『ペット』最大の魅力は、犬・猫・ウサギなど多彩な動物たちが織りなすキャラクターの個性です。マックスの真面目さ、デュークの不器用な優しさ、スノーボールの破天荒さなど、すべてのキャラが人間味にあふれています。セリフのテンポや仕草の細やかな演出が、まるで彼らが本当に人間社会で生きているかのようなリアリティを生み出しています。

2 – ニューヨークの街を舞台にした色彩豊かな世界観

イルミネーションらしいポップでカラフルな映像美が魅力。高層ビルの間を縦横無尽に駆け回るシーンや、地下水路を舞台にしたスリリングな展開など、リアルとデフォルメの絶妙なバランスがとれた都市描写は見応え十分。どのカットを切り取ってもアートのような完成度です。

3 – 家族と仲間の絆を描くハートフルストーリー

物語の核にあるのは、「居場所」と「絆」。マックスとデュークのすれ違いから始まる冒険は、やがてお互いを理解し合う感動のドラマへと変化します。ペットを飼ったことのある人なら誰もが共感できる、“家族とは何か”を問いかける優しいメッセージが込められています。

主な登場人物と演者の魅力

マックス（声：ルイス・C・K／日本語吹替：設楽統）

主人公のテリア犬。飼い主のケイティをこよなく愛し、彼女が留守にすると少し寂しがり屋な一面を見せます。ルイス・C・Kによる英語版では繊細さとユーモアを巧みに演じ、日常の些細な感情をリアルに表現。日本語吹替では設楽統が軽妙なテンポでマックスのツッコミ的ポジションを演じ、観客に親しみやすさを与えています。

デューク（声：エリック・ストーンストリート／日本語吹替：日村勇紀）

マックスの家に突然やってきた大型犬。見た目は怖そうだが、実は不器用で優しい性格。エリック・ストーンストリートは温かみのある声でデュークの心の揺れを表現し、コミカルさと哀愁を両立。日村勇紀の吹替も親しみやすく、バディムービー的な掛け合いがより一層際立ちます。

スノーボール（声：ケヴィン・ハート／日本語吹替：中尾隆聖）

野良動物集団を率いるウサギ。小柄な体に似合わない爆発的なテンションで暴走するギャップが魅力。ケヴィン・ハートの圧倒的な声のエネルギーがキャラクターのカオスさを際立たせ、日本語版では中尾隆聖が悪役らしい高揚感と愛嬌を絶妙にミックス。シリーズを象徴する存在感を放っています。

ケイティ（声：エリー・ケンパー／日本語吹替：佐藤栞里）

マックスの飼い主。明るく優しい性格で、ペットたちにとって安心の象徴。エリー・ケンパーの柔らかな声が“飼い主の愛”を感じさせ、日本語吹替の佐藤栞里も自然体で好感度の高い演技を見せています。人間キャラながら、物語の温かい軸を支える重要な存在です。

視聴者の声・印象

こんな人におすすめ

動物やペットが登場する映画が好きで、癒しと笑いの両方を求めている人。

『ミニオンズ』や『ズートピア』のようなテンポの良いアニメが好みの人。

小さな子どもと一緒に安心して観られるファミリー映画を探している人。

都会の風景や日常の中に潜む“非日常”を描いた作品が好きな人。

軽い気持ちで笑いたい、ハッピーな気分になりたい週末の映画タイムにぴったりな作品を探している人。

逆に避けたほうがよい人の特徴

深いドラマ性や重厚なメッセージを求める人。
ストーリーの意外性やサスペンス展開を期待している人。
キャラクターの心理描写や成長を丁寧に味わいたい人。
アニメーションよりも実写映画の臨場感を重視する人。
テンポの速いギャグや子ども向け演出が苦手な人。

社会的なテーマや背景との関係

『ペット』は表面的には明るくポップなファミリーアニメですが、その裏には「現代社会における孤独と共生」という普遍的なテーマが隠されています。人間社会の縮図として描かれるペットたちの世界には、競争・嫉妬・依存といった感情が色濃く反映されており、それらは現代人が直面する社会的ストレスと重なります。

主人公マックスと新入りデュークの関係性は、異なるバックグラウンドを持つ者同士が共存していく難しさを象徴しています。最初は自分の居場所を守ろうと対立しますが、やがて互いを受け入れ、協力するようになる過程は、現代の多様性社会やコミュニティ形成の縮図とも言えます。

また、都会という舞台設定は“便利さの裏にある孤立”を象徴しています。飼い主の留守中にペットたちが自由に行動するという設定は、現代人がSNSやデジタル空間で別の「顔」を持つことにも通じます。外の世界では自由に振る舞っても、最終的には「帰る場所」を求める――そんな心理的構造がペットたちを通して表現されています。

さらに、スノーボール率いる野良動物たちは、社会の“はみ出し者”としての存在を示しています。彼らの反逆や怒りは、社会から取り残された人々の叫びのようでもあり、作品全体に「受け入れ合うことの難しさと希望」というメッセージを添えています。

つまり『ペット』は単なる動物アニメではなく、私たち人間社会の在り方を映す鏡のような作品です。笑いの中に潜む社会風刺が、観る者にやさしく問いかけます――「あなたの“帰る場所”は、どこですか？」と。

映像表現・刺激的なシーンの影響

『ペット』の映像表現は、イルミネーション・エンターテインメント特有のポップで鮮やかな色彩美が際立っています。ニューヨークの高層ビル群を見下ろすシーンでは、朝日や夜景の光の反射まで丁寧に描かれ、まるで絵画のような美しさ。ペットたちが街を駆け抜ける場面では、カメラワークのダイナミズムとテンポの良い編集が融合し、観客をまるでアトラクションに乗っているかのような没入感へ導きます。

音響面では、ジャズやポップスを中心とした軽快なBGMが物語を彩り、アクションシーンではリズミカルなサウンドデザインが緊張感とユーモアを巧みに切り替えます。特に、スノーボール率いる野良動物軍団の登場シーンでは、音楽のビートがキャラクターのテンションを際立たせ、視覚と聴覚の一体感を楽しめます。

刺激的な描写については、基本的に暴力的・性的・ホラー的な表現はほとんどなく、全年齢層が安心して楽しめる内容です。ごく一部にカーチェイスや逃走シーンのようなスリリングな展開がありますが、演出はあくまでコミカルで恐怖を感じさせるものではありません。むしろ、スピード感とユーモアのバランスが絶妙で、子どもでも笑いながら見られるレベルに調整されています。

キャラクターの動きや毛並みの質感表現にも注目。マックスやデュークの毛並みは一本一本の質感まで丁寧に再現され、光源によって微妙に変化する陰影がリアルさを高めています。アニメーションの技術的完成度は極めて高く、イルミネーション作品の中でもトップクラスといえます。

全体として、『ペット』の映像演出は観客を驚かせるような刺激ではなく、“心地よい臨場感と親しみやすさ”を重視しています。視聴時にはそのカラフルな世界と軽快なリズムを純粋に楽しむ心構えで臨むのがおすすめです。

関連作品（前作・原作・メディア展開など）

『ペット』はオリジナル企画の長編アニメーションで、特定の原作（小説・コミック等）に基づかないIPです。そのため「原作との相違点」よりも、スタジオ由来の作風（ポップな色彩・テンポの良いギャグ・動物キャラクターの可視化）を踏まえて楽しむのがポイントになります。

シリーズ内の位置づけと観る順番については、基本的に公開順での視聴がもっとも自然です。まず本作『ペット』でキャラクターの性格や関係性を把握し、その後にシリーズ展開へ進むと、各キャラクターの背景や小ネタがより鮮明に伝わります。

スピンオフ／短編アニメとして、以下のような関連短編が制作されています。いずれも本編のキャラクターや世界観を補足し、軽快なコメディを短尺で味わえる内容です。

• 『Norman Television』：回転する換気口を舞台に、モルモットのノーマンの視点で“家の中の出来事”を覗き見るメタ的な短編。
• 『Weenie』：ホットドッグ屋台と“食”をめぐるドタバタを描く、テンポの良いギャグ短編。
• 『Super Gidget』：ギジェットが“ヒーロー”的に奮闘するスピンオフ。キャラクターの魅力を短い尺で凝縮した一本。

メディア展開としては、キャラクターグッズや玩具、絵本・塗り絵などのファミリー向け商品化が進み、ユニバーサル系のテーマパークでは世界観を体験できるアトラクションやフォトスポット等の施策が行われています。映画だけでなく、周辺メディアを通じてキャラクターに再会できるのが本シリーズの強みです。

まとめると、『ペット』の関連コンテンツは「本編（公開順）→短編スピンオフ」の順で触れるのが分かりやすく、キャラ理解が進むほど小ネタや身振りの面白さが増していきます。まずは本作で土台を作り、短編で推しキャラの魅力を深掘りしていく流れがおすすめです。

類似作品やジャンルの比較

『ペット』は、動物たちの視点から人間社会をユーモラスに描くというテーマが特徴です。同じく擬人化された動物を主人公にした作品としてまず挙げられるのが『ズートピア』。こちらは社会的メッセージが強く、差別や共生といった重めのテーマを扱う点で異なります。一方『ペット』は、より日常的で軽快なエンタメに寄せた作品であり、明るくテンポの良いコメディを求める人に向いています。

また、ドリームワークス製作の『マダガスカル』シリーズも、動物たちの冒険を描くという点で共通しています。『ペット』が都会的でコンパクトな舞台を持つのに対し、『マダガスカル』はよりスケールの大きなロードムービー的展開が特徴で、旅と仲間の物語を重視した構成です。

さらに、同じイルミネーション作品の『ミニオンズ』は、ギャグのテンポや映像トーンが非常に似ています。両作ともセリフに頼らず、表情や動きで笑わせるビジュアルコメディの妙が光ります。『ペット』が“家庭と絆”を描くのに対し、『ミニオンズ』は“混沌とユーモア”で魅せる点が対照的です。

ファミリー層に向けた作品としては『ピーターラビット』や『101』シリーズも比較対象となります。これらは動物と人間の関係性を軸にしていますが、『ペット』は完全に動物側の視点で描くことで、より“ペットの内面”に寄り添ったユニークな立ち位置を確立しています。

まとめると、『ペット』は「動物たちの秘密の生活」というシンプルで普遍的な題材を、現代的なアニメーションと軽妙な脚本で描いたエンタメ色の強い一作。他の動物映画に比べてストーリーはシンプルながら、テンポとキャラクター演出の巧みさで独自のポジションを築いています。

続編情報

『ペット』には、正式な続編として『ペット2』が存在します。これは前作の物語を引き継ぐ形で制作され、2019年に公開されました。監督は引き続きクリス・ルノーが担当し、制作はイルミネーション・エンターテインメントが手がけています。主人公マックスの声はパットン・オズワルトに変更され、ケヴィン・ハート（スノーボール役）やエリック・ストーンストリート（デューク役）など主要キャストが続投しています。

『ペット2』では、マックスと仲間たちがそれぞれ異なる冒険を通じて成長していく群像劇的な構成となっており、よりスケールの大きな世界観が描かれています。前作のファミリーコメディ要素に加え、アクション性と感動的なストーリー性が強化されているのが特徴です。

また、第3作となる『ペット3』が開発中であることも報じられています。イルミネーションのCEOが将来的な制作計画を示唆しており、脚本段階にあるとされています。ただし、現時点（2025年時点）では公開日や詳細なキャスト・スタッフは未発表です。

このように『ペット』シリーズは、スタジオの人気フランチャイズとして拡張が続いており、今後もさらなる展開が期待されます。

まとめ｜本作が投げかける問いと余韻

『ペット』は、飼い主のいない時間にだけ開く“もうひとつの生活”を覗き込むことで、私たちが当たり前だと思っていた日常に新しい角度を与えてくれる作品です。笑いのリズムは軽快で、色彩はカラフル、キャラクターは生き生き――けれど観終わって残るのは、単なるドタバタの楽しさだけではありません。マックスとデュークの距離が縮まるプロセス、野良たちの怒りと孤独、都会の喧噪の中で見つける安らぎ。そこには「居場所とは何か」「家族とは何でつながるのか」という静かな問いが埋め込まれています。

物語を一言で要約すれば“迷子からの帰還”ですが、その帰還が意味するのは住所への回帰ではなく、心の位置の定まりです。自分のテリトリーに固執するマックスと、生い立ちの影を引きずるデューク。ふたりが衝突し、やがて共闘する中で浮かび上がるのは、「違いを抱えたまま隣り合う」というささやかな成熟。大仰な説教をせず、笑いと小さな勇気で到達するこの着地点が、本作の一番の魅力だと感じます。

演出はポップで、音楽は軽やか。テンポを優先した小刻みなエピソード連結ゆえに、ドラマの厚みは控えめに見える瞬間もあります。それでも、ふとした仕草や街角の風景、ペット同士のまなざしが積み重なり、観客の記憶に“体温のある断片”として残っていく。派手な見せ場よりも、帰宅した飼い主に跳びつく一瞬の幸福――その普遍性を大切に抱える手つきに、作り手の誠実さがにじみます。

家族で笑って観られるエンタメでありつつ、忙しい日々に少し置き去りにしてきた感情をそっと拾い上げてくれる映画。ペットのいる人には“思い当たる瞬間”が、いない人にも“誰かを待つ気持ち”が、素直に響くはずです。観終えてから自分の生活に視線を戻したとき、いつもの部屋や通い慣れた道が少しだけ違って見える――そんな変化を連れてくる一本でした。

そして最後に残る問いは、とてもシンプルです。「あなたの帰る場所は、いま心地よいですか？」。その問いへの答えを探すために、私たちは今日もドアを開け、ただいまを言うのだと思います。

ネタバレ注意！本作の考察（開くと見れます）

ネタバレ注意！猫たちの会話（開くと見れます）