『アマチュア』とは?|どんな映画?
『アマチュア』は、CIAの言語分析官だった男が、突如として最愛の妻を失ったことをきっかけに、国家権力と対峙する「素人スパイ」へと変貌していくスパイスリラー映画です。
一言でいえば、「知性だけで国家に挑む男の復讐劇」。
主演のラミ・マレックが演じる主人公チャーリーは、銃の扱い方も逃げ方も知らない“アマチュア”でありながら、サイバー技術と洞察力を武器に、世界の暗部に切り込んでいきます。
冷静な頭脳戦と心理戦が繰り広げられる本作は、派手なアクションよりも緻密なプロットとリアリティ重視の展開が魅力。
スパイ映画の中でも異色のアプローチで、観る者に問いを投げかけてくるような重厚な一本です。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | The Amateur |
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タイトル(邦題) | アマチュア |
公開年 | 2025年 |
国 | アメリカ |
監 督 | ジェームズ・ホーズ |
脚 本 | ゲイリー・スピネッリ |
出 演 | ラミ・マレック、レイチェル・ブロズナハン、ローレンス・フィッシュバーン、エイドリアン・マルティネス、ジュリアンヌ・ニコルソン |
制作会社 | 20th Century Studios |
受賞歴 | 2025年7月現在、主要な映画賞の受賞歴は確認されていません |
あらすじ(ネタバレなし)
チャーリー・ヘラーは、CIAに勤務する言語分析官。戦場に赴くこともなく、オフィスでテロ情報の解析に従事する、いわば“机の上の諜報員”だった。
そんな彼の穏やかな日常は、ある日、突如として崩れ去る。最愛の妻が、テロ事件に巻き込まれて命を落としたのだ。
悲しみに暮れるチャーリーは、国家機関であるCIAに復讐の協力を求めるが、その訴えは黙殺されてしまう。
「ならば、自分の手で真相を突き止め、裁きを下すしかない――」
銃の扱いすら知らない“素人”が、国家の裏側に潜む闇へと足を踏み入れていく。
果たして、彼に待ち受けるものとは?そして、復讐は正義たりえるのか?
予告編で感じる世界観
※以下はYouTubeによる予告編です。
独自評価・分析
ストーリー
(3.5点)
映像/音楽
(3.5点)
キャラクター/演技
(4.0点)
メッセージ性
(4.0点)
構成/テンポ
(3.5点)
総合評価
(3.7点)
ストーリーは復讐劇として王道の構成ながら、主人公が“戦えない素人”であることが新鮮な切り口になっています。ただし中盤以降やや既視感のある展開もあり、点数は抑えめに評価。
映像・音楽は派手さはないものの、ヨーロッパの街並みや静かな演出が作品の緊張感を高めており、堅実な作りです。
演技面ではラミ・マレックの抑えた演技が光り、ローレンス・フィッシュバーンとの対話シーンには重みがあります。
メッセージ性としては「復讐は正義たりえるか」「国家の正義とは何か」といった倫理的問いが含まれており、スパイ映画としてはかなり異色の哲学的テーマを含みます。
構成・テンポは比較的淡々とした進行で好みが分かれる部分も。アクション映画として期待するとやや地味に感じるかもしれませんが、リアル志向のスリラーとしては十分に成立しています。
3つの魅力ポイント
- 1 – “戦えないスパイ”という斬新さ
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主人公チャーリーは、いわゆるプロの工作員ではなく、言語分析官という文系職種。銃や格闘技には不慣れで、敵と対峙する際も頭脳で状況を打開していきます。従来のスパイ像とは真逆の人物が主人公となることで、リアリティとサスペンスが強調されています。
- 2 – 静かな怒りと心理戦の緊張感
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本作では、主人公の内に秘めた怒りや葛藤が静かなトーンで描かれており、爆発的なアクションの代わりに、沈黙や視線といった微細な演出で観客を惹きつけます。ラミ・マレックの抑えた演技が作品の雰囲気と見事に融合しています。
- 3 – 復讐を問う重厚なテーマ
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ただの復讐劇では終わらず、「正義とは何か」「復讐は許されるか」といったテーマが背景に込められています。主人公の行動に賛否が分かれる構造により、観る者自身が倫理や正義について深く考えさせられる点も本作の大きな魅力です。
主な登場人物と演者の魅力
- チャーリー・ヘラー(ラミ・マレック)
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言語分析官としてCIAに所属していたチャーリーは、妻を失ったことで人生が一変。戦闘経験ゼロの“素人”ながら、国家権力に復讐を誓う異色の主人公です。
ラミ・マレックは『ボヘミアン・ラプソディ』とは一転して内向的な役柄を演じ、その鋭い視線と抑えた演技で、チャーリーの葛藤や決意を繊細に表現しています。 - ヘンダーソン(ローレンス・フィッシュバーン)
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CIAの内部でチャーリーの行動を監視しつつ、時に彼を導く存在。経験豊富な諜報員としての威圧感と、どこか父性的な包容力を併せ持ったキャラクターです。
ローレンス・フィッシュバーンは静かな佇まいの中に圧倒的な存在感を放ち、物語の重厚さを支えています。 - サラ・ヘラー(レイチェル・ブロズナハン)
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チャーリーの妻であり、冒頭の事件で命を落とす重要な存在。彼女の存在が、物語の全体的な動機となります。
回想や映像記録を通して描かれる彼女の姿には、温もりとリアリティが宿っており、レイチェル・ブロズナハンの演技によって“失われた幸福”の重みがしっかりと伝わってきます。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
スパイ映画=ド派手なアクションやガジェット満載を期待している人
テンポの速い展開やわかりやすいカタルシスを求める人
明るく軽快な雰囲気の作品が好みの人
物語に強い刺激や驚きを求めるタイプの人
重いテーマや静かな描写が続く映画が苦手な人
社会的なテーマや背景との関係
『アマチュア』は、一見すると個人的な復讐劇に見えるかもしれませんが、その奥には国家権力と個人の関係性という普遍的かつ重厚な社会的テーマが横たわっています。
主人公チャーリーが直面するのは、「愛する人を奪われたにもかかわらず、国家はそれに応えてくれない」という現実。ここには、国家の正義と個人の正義が必ずしも一致しない現代社会の矛盾が反映されています。
また、劇中では監視システムや諜報技術といった現代的な要素も登場し、テクノロジーによる監視社会の問題や、個人情報の扱いに対する不安も示唆されています。
「何が正義か」を問う構図は、戦争やテロを巡る国際的な議論とも結びつきます。特に、国家が掲げる“正義の名の下”に犠牲が生まれる構造は、アメリカの諜報機関が関わる実際の作戦や秘密工作を想起させるものです。
チャーリーがたどる道は、単なる復讐の旅ではなく、国家という巨大なシステムに抗う個人の姿として描かれており、その姿に観客は「これは他人事ではない」と感じざるを得ません。
現代において、テロや報復、監視といったキーワードは日々のニュースでも耳にするものですが、それを物語として咀嚼することで、より深い問いを私たちに投げかけてきます。
『アマチュア』は、ただの娯楽作品ではなく、私たちが生きる社会のあり方に目を向けさせる社会派スリラーでもあるのです。
映像表現・刺激的なシーンの影響
『アマチュア』の映像表現は、近年のスパイ映画に見られる派手な爆発や過剰なスローモーションといった演出とは異なり、リアルで淡々とした映像美が特徴です。
ヨーロッパの石畳の街並みや、寒色系で統一された画面設計が、作品全体に静謐で緊張感のあるトーンを与えています。また、カメラワークはあえて抑制されており、手ブレや極端なズームなどは最小限。まるでドキュメンタリーを見ているような現実味が演出されています。
音響もまた控えめで、劇伴が大きく感情を煽ることはありません。静寂や環境音が緊迫感を引き立てる場面が多く、観る側の集中力を必要とする演出がなされています。
一方で、暴力的な描写は一部に存在します。銃撃や近接戦闘のシーンでは、過剰にショッキングな演出は避けられているものの、現実的な痛みや恐怖を感じさせる描写があり、苦手な方には注意が必要です。
性的な表現や過度な流血描写は控えられているため、R指定レベルの刺激はないものの、心理的に緊張を強いられるシーンが連続するため、気軽な娯楽作品とは異なる心構えで視聴することが望ましいでしょう。
総じて、映像や演出は「見せ場」よりも「雰囲気と説得力」を重視しており、刺激の強さではなく、リアリティと静かな狂気を描き出す演出力に注目して観るべき作品です。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
『アマチュア』はロバート・リテルによる1981年の小説『The Amateur』を原作とした作品です。この原作は冷戦時代を背景にしたスパイ小説で、主人公チャーリー・ヘラーが復讐のためにCIAの枠を超えて行動を起こすというストーリーの原型が描かれています。
実はこの原作小説は、すでに1982年にカナダで映画化された作品が存在しており、同名の『The Amateur』として公開されました。ただし、この旧作は現在あまり流通しておらず、視聴できる機会も限られています。
今回の2025年版は、原作のテーマを引き継ぎつつ、現代の監視社会やサイバー技術を盛り込んだアップデート版となっており、映像表現・テンポ・登場人物の背景など、全体的に刷新されています。
観る順番としては、本作単体で完結しており、過去の映画や小説を未読でも問題ありません。ただし、原作や1982年版を知っていると、時代ごとの「国家と個人」の描かれ方の違いを比較する楽しみもあるでしょう。
メディア展開としては、2025年版の公開にあわせて原作小説の再販や電子書籍化も進んでおり、今後の展開にも注目が集まっています。
類似作品やジャンルの比較
『アマチュア』はスパイ映画というジャンルに属しながらも、従来の作品とは一線を画したアプローチが特徴です。ここでは、似たジャンルの代表作と比較しつつ、本作の独自性を整理します。
『007』シリーズや『ミッション:インポッシブル』は、スパイ映画の王道として高い人気を誇りますが、どちらもプロフェッショナルで華麗な主人公が世界規模の陰謀に立ち向かうという構成です。これに対し、『アマチュア』は「素人」が国家と向き合うという構図で、より現実的かつ内面的な物語が展開されます。
また、記憶を失った暗殺者を描く『ボーン』シリーズや、スーツ姿のエージェントが活躍する『キングスマン』なども比較対象になりますが、これらがスピーディでスタイリッシュなアクションに比重を置いているのに対し、『アマチュア』はあくまでも静かな心理戦と復讐の感情に重きを置いています。
『アトミック・ブロンド』のようなリアル寄りのスパイアクションとの共通点もありますが、本作の主人公は「戦えるキャラ」ではなく、知力と決意だけで状況を切り開いていく点が最大の違いと言えるでしょう。
そのほか、Netflix系のスパイ映画である『ハート・オブ・ストーン』や『グレイマン』といった作品群とも比較されがちですが、『アマチュア』はエンタメ色を抑え、倫理性や内省的テーマに重きを置くという点で独自の立ち位置を築いています。
総じて、「これが好きならこれも」という観点では、『ボーン』や『アトミック・ブロンド』のリアル系スパイアクションが近い空気感を持ちつつも、より静かで心理的な緊張感を楽しみたい人に本作はフィットします。
続編情報
2025年7月時点で、『アマチュア』の続編に関する公式発表は行われていませんが、制作陣や出演者からは続編に前向きな姿勢が語られています。
特に主演のラミ・マレックとローレンス・フィッシュバーン、そして監督のジェームズ・ホーズは、米メディアのインタビューで「キャラクターの物語はまだ終わっていない」と発言。監督はすでに続編構想として「師弟関係の逆転劇」や「新たなバディスパイ像の創出」を挙げており、明確なビジョンを持っている様子です。
また、構想の中では舞台を南アジアやナミビアなどに広げる案も示されており、より国際的な陰謀と舞台設定が検討されているようです。脚本面では、ジャクソン(ジョン・バーンサル)や妻サラの“生存説”など、前作で未解決だった要素を深掘りする方向性も示唆されています。
興行的にも本作は制作費約6,000万ドルに対して、全世界で約9,600万ドルを超える興収を記録しており、スタジオ側が続編を検討するに足る実績を残しています。
現時点では「制作決定」や「公開時期」などの具体的情報は未発表ながら、続編が企画段階にある可能性は高く、今後の続報が期待されます。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『アマチュア』は、派手なアクションやスリルではなく、静かな怒りと抑制された演出の中に、深い人間の感情と倫理的な問いを織り込んだ異色のスパイ映画です。
物語の中心にあるのは、「復讐は正義になり得るのか?」というテーマ。そして「国家の正義」と「個人の正義」がすれ違うとき、私たちはどちらに加担するのか――その問いは、観客にとっても決して他人事ではなく、現代の監視社会や国際情勢とも地続きのリアルな問題として突きつけられます。
主人公チャーリーは、決して完璧でもヒーローでもない“普通の人間”です。だからこそ、彼の苦しみや葛藤は観る者の心に深く染み込み、静かに共鳴します。戦えない者が、それでも大切なもののために立ち上がる姿は、誰の中にもある弱さと強さの両方を照らし出します。
この作品は、終始静かなテンションで物語が進行するため、見終えた直後の高揚感よりも、時間が経つごとにじわじわと効いてくる“後味”を持っています。ふとした瞬間に、チャーリーの選択や言葉、視線が思い出され、私たち自身の倫理観や社会への向き合い方を問い直させるのです。
正義とは何か。国家とは、組織とは、家族とは。そして、その中で“個人”はいかに生きるべきなのか――。
『アマチュア』は、観終えたあとも観客の中で問いを投げ続ける、静かで力強い作品です。深く考えたい夜、静かに自分と向き合いたい時間に、ぜひ観てほしい一本です。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
OPEN
本作のラストに向けて浮かび上がってくるのは、「果たしてチャーリーの復讐は正しかったのか?」という問いです。表面的にはテロリストへの報復という形を取っていますが、その背後にあった政府の情報操作や隠蔽体質が浮き彫りになるにつれ、彼の戦いは個人的な怒りを超えた社会的な告発へと変化していきます。
特に注目すべきは、チャーリーが終盤に見せる“選択”です。復讐を遂げたあと、さらに行動をエスカレートさせるか、それとも手を引くかという選択は、観客に「正義とは何をもって成立するのか?」を考えさせる装置となっています。
また、本作ではサラ(妻)が登場する回想シーンがいくつか挿入されますが、それがただの追憶ではなく、チャーリーの内面で葛藤や判断の象徴として機能しているようにも見えます。一部のファンの間では、彼女の存在が“生存している可能性”として暗示されているという説もあり、その真偽を巡って考察が分かれています。
さらに、ヘンダーソンというキャラクターの役割も重要です。彼は単なる上官ではなく、“国家の論理と現場の理性”の板挟みにいる存在であり、チャーリーとの対話は、理想と現実のズレ、そして組織の倫理性を象徴しています。
全体を通して、本作にはいくつかの未回収の伏線があります。ジャクソンの真の目的や、データリークに関わる内部人物の正体などは、明確には描かれていませんが、あえて余白を残すことで観客自身に解釈を委ねる構造となっています。
こうした点から、『アマチュア』は単なるスパイサスペンスではなく、観終わったあとも考え続けることを前提とした“参加型の物語”だと捉えることができるでしょう。
ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)
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