『長ぐつをはいたネコと9つの命』とは?|どんな映画?
『長ぐつをはいたネコと9つの命』は、命の大切さや“生きる意味”を描いた、アドベンチャー仕立てのファンタジー・アニメ映画です。
『シュレック』シリーズから誕生した人気キャラクター「プス」が主人公であり、ユーモラスな猫の魅力とスリリングな冒険が融合した一本です。
コミカルなアクション、印象的なビジュアル、そして大人も子どもも楽しめる哲学的テーマが絶妙にブレンドされており、「絵本の世界をハリウッド流に深化させた現代寓話」と言えるでしょう。
前作を知らなくても楽しめる構成ですが、シリーズファンへの細やかなオマージュも豊富に盛り込まれています。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | Puss in Boots: The Last Wish |
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タイトル(邦題) | 長ぐつをはいたネコと9つの命 |
公開年 | 2022年 |
国 | アメリカ |
監 督 | ジョエル・クロフォード |
脚 本 | ポール・フィッシャー、トミー・スウォーズ |
出 演 | アントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック、ハーヴィー・ギーエン、フローレンス・ピュー ほか |
制作会社 | ドリームワークス・アニメーション |
受賞歴 | 第95回アカデミー賞 長編アニメ賞ノミネート、アニー賞 6部門ノミネート(編集賞受賞) |
あらすじ(ネタバレなし)
命を惜しまず数々の冒険に挑んできた伝説の剣士ネコ、プス。彼はすでに9つあるはずの命を8回も使い果たしていた――。
そんなある日、プスは自らの“最後の命”が尽きる恐怖に直面することに。失われた命を取り戻す唯一の方法は、「願い星」と呼ばれる魔法の力を探し出すことだった。
旅の途中で再会するのは、かつての相棒であり恋の火花もあったキティ・フワフワーテ。さらに、おしゃべりでお節介な“セラピー犬”ペリートも巻き込んで、個性派チームが結成される。
一方、願い星を狙うのはプスたちだけではない。敵か味方か分からないユニークなライバルたちも現れ、プスの旅は予測不能な方向へ――。
果たしてプスは、自らの命と向き合いながら、真に大切なものを見つけ出せるのか?
予告編で感じる世界観
※以下はYouTubeによる予告編です。
独自評価・分析
ストーリー
(4.0点)
映像/音楽
(4.5点)
キャラクター/演技
(4.5点)
メッセージ性
(4.0点)
構成/テンポ
(4.0点)
総合評価
(4.2点)
ストーリーは王道ながらも「命の有限性」という深いテーマを巧みに盛り込み、子どもにも大人にも響く構成となっています。映像は水彩調のタッチやフレーム落としなど斬新な表現が際立ち、アクションの演出も秀逸です。キャラクターは個性豊かで、特にプスとペリートの掛け合いは魅力的。メッセージ性も強く、「恐怖と向き合い、再び立ち上がる勇気」が静かに語られます。構成はテンポよく、笑いと緊張感がバランス良く配されていますが、やや既視感のある展開も含まれていたため満点は見送りました。
3つの魅力ポイント
- 1 – ビジュアル演出の革新性
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水彩画風の描写や、意図的にフレーム数を落としたアクションシーンなど、従来のCGアニメとは一線を画す映像表現が本作最大の魅力のひとつ。特にクライマックスにかけては、スピード感と美しさが共存したビジュアル体験が広がる。
- 2 – キャラクターの人間味
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主人公プスはただの“強いネコ”ではなく、恐怖や弱さと向き合う存在として描かれている。その姿に共感が生まれると同時に、相棒ペリートの純粋さやキティのツンデレな魅力が物語をより温かく、奥行きのあるものにしている。
- 3 – 普遍的テーマの深掘り
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「死」や「命の使い方」といった重いテーマを扱いながらも、それを子どもにも伝わる表現に落とし込んでいる点が秀逸。哲学的な問いを含みつつも説教臭さはなく、自然な形で観客に“自分自身の人生”を問いかけてくる。
主な登場人物と演者の魅力
- プス(アントニオ・バンデラス)
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伝説の剣士でありながら、今回は「死の恐怖」と向き合うという新たな一面が描かれるプス。アントニオ・バンデラスは、威厳とユーモア、そして脆さを見事に声だけで表現しており、まさにこのキャラの“魂”を担う存在。シリーズを通じて演じてきた経験が、キャラクターの奥行きを深めている。
- キティ・フワフワーテ(サルマ・ハエック)
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クールでミステリアスな雰囲気を持ちながらも、内に秘めた思いやりがにじみ出るキャラクター。サルマ・ハエックの落ち着きある声と艶やかな発音が、キティの強さと優しさを自然に表現している。プスとの関係性も見どころのひとつ。
- ペリート(ハーヴィー・ギーエン)
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元セラピー犬という異色の経歴を持ち、純粋で底抜けに明るい性格のペリート。ハーヴィー・ギーエンのコミカルで温かみのある声は、このキャラクターの「癒し」と「ブレない芯の強さ」を同時に表現。物語の潤滑油として重要な役割を担っている。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
シリアスで重厚なストーリー展開を期待している人
アニメーション作品=子ども向けと捉えて苦手意識がある人
現実的でリアリティ重視の映画を好む人
ハイテンポなギャグやノリが合わないと感じる人
過去作を観ていないと楽しめないと思っている人(実際は未視聴でも楽しめます)
社会的なテーマや背景との関係
『長ぐつをはいたネコと9つの命』は一見すると冒険と笑いに満ちたファンタジー映画だが、その背後には「命の有限性」や「自己の存在意義」といった深いテーマが横たわっている。
現代社会では、スピード重視の生活や成果主義の価値観の中で、自分の“命の時間”をどこに使うか悩む人が増えている。本作の主人公プスもまた、数々の冒険に明け暮れる中で「命を浪費してきた」という事実に直面する。これは現代人が感じる“時間の消費感覚”と重なる部分がある。
また、「死の恐怖」と向き合う描写は、コロナ禍以降に高まったメンタルヘルスや自己不安といった社会的課題を反映しているようにも読み取れる。プスが直面する不安や孤独は、誰もが心のどこかに抱えている感情であり、その描写は決して子ども向けの単純な寓話ではない。
さらに、ペリートというキャラクターの存在が象徴的だ。過去に虐待を受けながらも陽気さを失わない彼の姿は、「過去のトラウマとどう付き合うか」という現代的な問いを投げかける。彼の無条件のポジティブさは、時に見逃されがちな“回復力”というテーマを観客にそっと示している。
このように本作は、命・恐怖・孤独・再生といった普遍的なテーマをファンタジーの枠組みに巧みに落とし込み、現代社会が抱える問題を寓話的に照射していると言える。笑いながら観ていても、気がつけば“自分自身の生き方”について静かに考えさせられる、そんな深い余韻を残す作品だ。
映像表現・刺激的なシーンの影響
本作『長ぐつをはいたネコと9つの命』は、近年のアニメーション映画の中でも特に映像表現の革新性が際立つ作品です。従来の3D CGに加えて、2Dアニメ的な質感や水彩画風の背景が融合されたスタイルは、視覚的に新鮮かつ詩的な印象を与えます。
特にアクションシーンでは、あえてフレームレートを落とす“カクつき”のある演出が使用され、動きのダイナミズムやキャラクターの決意を際立たせています。この技法は『スパイダーバース』以降注目されているスタイルであり、本作でもそれが効果的に活用されています。
色彩は場面ごとに大きく変化し、陽気なシーンでは明るくポップなパレット、対照的に緊迫したシーンではダークで陰影の強い配色に切り替わります。光と影のコントラストや構図の美しさも本作の魅力のひとつで、まるで絵本をそのまま動かしたかのような感覚に浸ることができます。
音響面では、剣戟の金属音や足音、息遣いといった細かな効果音が丁寧に設計されており、臨場感のあるサウンドデザインが没入感を高めています。また、感情の起伏に寄り添う音楽の挿入も巧みで、シーンの印象を際立たせる演出として機能しています。
一方で、注意点として一部にやや過激な演出や驚かせるような描写が含まれます。例えば、「死」を象徴するキャラクター“ウルフ”の登場シーンでは、不気味な笛の音と共に現れる演出があり、小さなお子様には少々怖く感じられる可能性があります。暴力やホラー描写が直接的に描かれることはありませんが、精神的に“怖い”と感じる場面も存在します。
そのため、本作はファミリー向けでありながらも感受性の高い年齢層の視聴者には、事前に雰囲気を把握しておくことをおすすめします。恐怖や緊張を演出として効果的に用いることで、キャラクターの感情や物語の深みがより引き立っているのです。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
『長ぐつをはいたネコと9つの命』は、ドリームワークス・アニメーションによる『シュレック』シリーズのスピンオフ作品として制作されました。本作は、2011年公開の『長ぐつをはいたネコ(Puss in Boots)』の続編にあたり、プスを主役に据えた単独シリーズの2作目です。
『シュレック』シリーズの中で初登場したプスは、当初脇役ながらも高い人気を博し、スピンオフ作品が作られるまでに至りました。シリーズ全体で見ると、本作は『シュレック』シリーズの世界観と地続きであり、「ユニバース作品」的な位置付けでもあります。
また、本作はグリム童話に登場する「長ぐつをはいたネコ」をベースにしながらも、完全に独自のキャラクター性と物語が与えられており、原作童話とは大きく異なる展開が特徴です。童話的なモチーフを活かしつつ、アクションや哲学的テーマを盛り込んだ現代的なストーリーテリングが際立ちます。
さらに、Blu-ray/DVDには短編アニメ『The Trident(ザ・トライデント)』が特典映像として収録されており、本作の後日談的な位置づけで楽しめる内容となっています。キャラクターの魅力を深掘りしたい方にはこちらもおすすめです。
時系列としては『シュレック2』→『シュレック3』→『長ぐつをはいたネコ』→『長ぐつをはいたネコと9つの命』の順で観ると、よりキャラクターの成長や関係性の変化を楽しめる構成となっていますが、本作単体でも完結しており、初見でも問題なく楽しめます。
そのほか、公式アートブック『The Art of DreamWorks’ Puss in Boots: The Last Wish』も出版されており、制作の舞台裏や美麗なコンセプトアートを楽しめる一冊となっています。作品世界をより深く味わいたい方には必携の資料です。
類似作品やジャンルの比較
『長ぐつをはいたネコと9つの命』は、ファンタジー・アドベンチャーというジャンルの中で、哲学的テーマとスタイリッシュな映像表現を融合させた作品です。こうした特徴を持つ作品は近年増えており、以下にいくつかの類似タイトルを紹介します。
『長ぐつをはいたネコ(2011)』は本作の前作であり、キャラクターの原点を知るには欠かせない1本です。前作ではユーモアと軽快なアクションが中心でしたが、本作はそこに“命”という重いテーマが加わる点が異なります。
『ザ・バッドガイズ(2022)』は同じくドリームワークスによるアニメで、2D調のタッチやダイナミックな編集が特徴です。アクションとユーモアが前面に出ている点は共通していますが、本作ほどメッセージ性は強くありません。
『スパイダーマン:スパイダーバース(2018)』は、映像表現の革新性という面で本作と並び称される作品です。フレームレートや色彩の使い方で映画のテンポ感を表現するという点では、本作と非常に近いアプローチを取っています。
『ズートピア(2016)』は、擬人化された動物たちが活躍するという意味で本作とジャンルが重なります。社会的テーマを軽妙に描きつつ、子どもにも理解しやすい物語構成に仕上げている点も共通しています。
『クロウズ:ニュー・エイジ(2020)』は、家族や仲間との絆をテーマにした冒険譚。ユーモアと感動をバランスよく取り入れた演出が共通しており、本作の“ハートフル”な側面に近いと言えるでしょう。
これらの作品に共通するのは、「子どもも大人も楽しめる多層的な構成」や「ユニークなビジュアル表現」です。一方で、本作は“死”や“トラウマ”といった内面的なテーマにも踏み込んでおり、より深い余韻を残す点で際立っています。
続編情報
『長ぐつをはいたネコと9つの命』の続編に関する正式なタイトルや制作発表は、2025年7月時点では公表されていません。
しかしながら、監督のジョエル・クロフォードは複数のインタビューにて「プスの物語はまだ終わっていない」と語っており、第3作(Puss in Boots 3)に向けた構想があることを示唆しています。
本作のラストには、“Far Far Away”(『シュレック』シリーズの舞台)へと向かうシーンが含まれており、『シュレック5』との関連やクロスオーバーを含んだ世界観の再統合が期待されています。
また、ユニバーサル・ピクチャーズおよびドリームワークス側は、近年フランチャイズ再編の動きを強めており、『シュレック』シリーズのリブートおよびスピンオフを中心とした展開が企画されていることも報じられています。
現時点で具体的な公開時期や新キャストの情報は出ていないものの、ファンやメディア関係者の間では続編制作の可能性が高いと見られています。制作が進行している場合でも、水面下での準備段階にあると考えられます。
なお、スピンオフやプリクエルといった派生展開に関する情報も未確認ですが、シリーズの人気や設定の拡張性を踏まえると、今後何らかの動きがある可能性は十分にあるでしょう。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『長ぐつをはいたネコと9つの命』は、ただの“猫が主人公の冒険ファンタジー”にとどまらない、深い余韻と人生観を残す物語です。剣と冒険、ユーモアと映像美。そのすべてのエンタメ要素が整ったうえで、物語の中心には「死」や「恐怖」、そして「生きる意味」が静かに置かれています。
本作の主人公プスは、9つあるはずの命のうち8つを使い切った状態から始まります。この設定は単なるギャグではなく、視聴者に「あなたは自分の命をどう使っていますか?」という問いを投げかけます。限りある時間と命の中で、何を選び、誰と生き、何を大切にすべきか。それは、大人にとっても簡単に答えられない難問です。
作中では、怖れを抱えながらも仲間と手を取り合い、心を開いていくプスの姿が描かれます。強がりや孤独を乗り越えた先にあるものは、勇気でも勝利でもなく、“受け入れること”の大切さなのかもしれません。
また、サブキャラクターであるペリートの存在が、もう一つの問いを投げかけます。過酷な過去を持ちながらも純粋さを失わない彼の姿は、「何があっても、前を向いて生きることはできる」という希望そのものです。彼の言葉や行動は、物語全体の“癒し”であり、“答え”でもあるように思えます。
視聴後に残るのは、「生きるとはどういうことか」「命の重さとは何か」「大切なものは何か」という普遍的な問い。そしてそれは、プスという一匹のネコを通して、誰もが心のどこかで感じている疑問を改めて見つめ直す機会を与えてくれます。
楽しく、可愛く、少し切ない。そんなバランスの絶妙さが、本作を単なる続編以上の存在に引き上げています。人生に迷ったとき、あるいは日常に疲れたとき。ふとこの作品を思い出せば、そこには“生きるヒント”があるかもしれません。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
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本作における最大の象徴は、やはり“死の化身”として登場するウルフの存在です。彼は単なる敵役ではなく、プスの内面にある「死への恐怖」の投影とも言えます。ウルフの姿は常に影に包まれ、笛の音とともに現れる演出は、プスにとっての“避けがたい運命”を象徴しています。
その意味で、本作は単なる冒険活劇ではなく、“死を自覚した英雄が、自分の人生を再定義する物語”として読むことができます。プスが最後に自らの恐怖を受け入れ、ウルフと対等に向き合う場面は、象徴的な“自己受容”の瞬間であり、ヒーロー像の更新とも言えるでしょう。
また、願い星をめぐる争奪戦には、それぞれのキャラクターが抱える「欠落」が映し出されています。キティは信頼、ゴルディとクマ一家は家族の形、ジャック・ホーナーは万能欲求。誰もが“何かを失っている”状態で物語に参加していることは、テーマ的に非常に示唆的です。
一方で、唯一願いを持たないペリートの存在は異質です。彼は「今この瞬間を楽しんでいる」だけで、何も失っていないし、何かを望んでもいません。この対比が、物語全体に“本当の満足とは何か?”という問いを投げかけています。
本作が優れているのは、こうした深いテーマ性を持ちながらも、それを押し付けがましく語らない点にあります。観客は、キャラクターの行動や選択を通して、それぞれの視点で物語を“受け取る”ことができるのです。
最後に描かれる“Far Far Away”への航海は、プスの新たな旅立ちであり、「恐怖を越えた先にある“自分らしい生”への第一歩」とも受け取れます。
本作は、命の数ではなく、その命をどう生きるかを問う作品なのです。
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