『プラットフォーム』とは?|どんな映画?
『プラットフォーム』は、上下階層で構成された“縦型の牢獄”に囚われた人々が、毎日1度だけ降りてくる食事台を巡ってサバイバルを繰り広げる、スペイン発のディストピア・サスペンス映画です。
本作は極限状況下での人間心理や社会的メッセージを鋭く描き出しており、「格差社会」「連帯」「倫理」といったテーマを寓話的に表現した問題作として世界中で大きな話題を呼びました。
舞台は徹底してミニマルである一方、心理的な緊張感とショッキングな描写で観る者を圧倒します。「視聴者の“善悪感覚”を問う作品」とも言われ、多くの議論を巻き起こしました。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | El hoyo |
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タイトル(邦題) | プラットフォーム |
公開年 | 2019年 |
国 | スペイン |
監 督 | ガルデル・ガステル=ウルティア |
脚 本 | ダビド・デソラ、ペドロ・リベロ |
出 演 | イバン・マサゲ、ソリオン・エギレオル、アントニア・サン・フアン |
制作会社 | バスキン・フィルムズ、カタルニャ・ラジオ・テレビ |
受賞歴 | 2019年トロント国際映画祭 ミッドナイト・マッドネス観客賞 |
あらすじ(ネタバレなし)
とある未来、巨大な“縦型の監獄”に収容された主人公ゴレンは、毎月変わる階層と、日に一度上層から降りてくる食事台というルールの中で過酷な生活を強いられていた。
最上階から順番に食事が消費されていく構造により、下層になるほど食べ物は残されておらず、飢えや暴力が支配する空間となっている。
この異常なシステムの中で、ゴレンは“人間らしさ”を保ちながら生き抜こうとするが、やがて彼はこの牢獄の本質に疑問を抱き始める——。
予告編で感じる世界観
※以下はYouTubeによる予告編です。
独自評価・分析
ストーリー
(4.0点)
映像/音楽
(4.5点)
キャラクター/演技
(4.0点)
メッセージ性
(5.0点)
構成/テンポ
(4.0点)
総合評価
(4.3点)
限られた空間とシンプルな構造の中で、圧倒的な心理的緊張感と深いメッセージを成立させている点を高く評価しました。映像表現と音響演出は物理的な“穴”の無機質さを際立たせ、俳優陣の熱演も非常に印象的です。
特にテーマ性においては、寓話的な構造で格差や社会制度を描き切る手腕が秀逸であり、観る者に強い問いを残します。
3つの魅力ポイント
- 1 – 革新的な設定と構造
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「縦型監獄」というアイデアは非常にユニークで、視覚的にも構造的にも強烈な印象を与えます。この一点突破の舞台設定が、観る者に強い没入感と緊張感を与える原動力になっています。
- 2 – メタファーとしての社会批評
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食糧の分配という仕組みを通じて、現代社会の格差やエゴイズム、そして“分かち合い”の可能性を問う姿勢が見事です。寓話のような物語でありながら、鋭い批評性を備えています。
- 3 – ミニマル演出の最大活用
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舞台はシンプルながら、光と影の演出、音響、俳優の演技などによって最大限のドラマを引き出しています。派手なCGやロケに頼らず、内面的な恐怖と葛藤をリアルに描写している点が魅力です。
主な登場人物と演者の魅力
- ゴレン(イバン・マサゲ)
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主人公であり、理想と良心を胸にこの“縦穴の牢獄”に飛び込んだ人物。知性と葛藤のバランスが見事に描かれており、イバン・マサゲの静かな演技がその苦悩を丁寧に伝えます。
- トリマガシ(ソリオン・エギレオル)
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ゴレンと最初に同室になる年配の男。過酷な環境で生き延びることを最優先にする実利主義者であり、その狂気と理性の狭間を体現する演技は圧巻です。
- イモグリ(アントニア・サン・フアン)
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“管理側”から来たとされる謎多き女性。秩序や理念を信じながらも現実とのギャップに揺れ動くキャラクターで、アントニア・サン・フアンの存在感がその矛盾を見事に体現しています。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
過激な描写やショッキングな展開が苦手な人
抽象的なメッセージや寓話的表現に戸惑いやすい人
ストーリーの明快な起承転結を求める人
重く暗いテーマに強い抵抗を感じる人
社会的なテーマや背景との関係
『プラットフォーム』は、極限状態に置かれた人間社会を舞台に、格差・資源の分配・倫理の限界といった重厚なテーマを寓話的に描いた作品です。
上層階の人間が食事を貪り、下層階では何も残っていない──という構造は、現実社会の経済格差や貧困問題の縮図ともいえます。しかも、階層は毎月ランダムに変動するため、「努力」や「能力」が報われる構造にはなっていません。
この“運と環境に左右される不条理”は、現代の新自由主義や競争社会に対する痛烈な批判として受け取ることもできます。物語の中で描かれる連帯や希望の芽生えは、現実における連携や変革の可能性を象徴しているのかもしれません。
また、「自分が食べる量を抑えれば、下の人に残る」という単純な構造が機能しない現実も、本作の重要な問いかけのひとつです。これは、人間の利己性や制度の限界を見事にあぶり出しています。
映像表現・刺激的なシーンの影響
『プラットフォーム』の映像表現は極めてミニマルでありながら、その制約を逆手に取った巧みな演出が光ります。舞台となる縦型の部屋は同じ構造の繰り返しであるにもかかわらず、照明やカメラアングルの違いによって、階層ごとの“温度感”が伝わってきます。
音響面では、食事台の落下音や人々の叫び、静寂の使い方が効果的で、観る者にじわじわと恐怖と緊張を与えます。BGMは最小限に抑えられており、その“無音”すら不穏な空気を演出する要素となっています。
一方で、暴力描写やカニバリズムを含むショッキングなシーンも多く、苦手な人にとっては強いストレスとなり得る内容です。血の描写や身体損壊、死体の登場が頻繁にあり、R指定作品としての妥当性は高いといえます。
このような刺激的な表現が、本作の持つメッセージ性や現実社会への批評性を強化する要素となっている一方で、視聴には一定の心構えが必要です。鑑賞前に内容を把握しておくことで、自分に合う作品かどうかの判断がしやすくなるでしょう。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
『プラットフォーム』はオリジナル脚本をもとにした単発映画であり、前作や原作は存在しません。もともとは演劇用の台本として構想されていたアイデアが、映画という形で具現化された経緯があります。
本作のヒットを受けて、Netflixによって続編『プラットフォーム2』が制作され、2024年10月に配信されました。続編は前日譚のような構成で、「穴」の誕生や初期の仕組み、支配構造に焦点を当てています。
シリーズ作品としての展開はこの2作のみですが、Netflixという配信媒体を通じて国際的に大きな反響を呼び、社会的議論を巻き起こす“メディア現象”的な広がりを見せた点も注目に値します。
類似作品やジャンルの比較
『プラットフォーム』と類似したジャンルとしてまず挙げられるのが、『CUBE』シリーズです。閉鎖空間に閉じ込められた人々が脱出を目指すという点で共通し、人間心理の極限を描くというテーマ性も一致しています。
また、『Parasite(パラサイト)』や『Snowpiercer(スノーピアサー)』なども、格差社会や階級構造に強い批評性を持つ作品として本作と並べられることが多いです。どちらもエンタメ性とメッセージ性を高次元で融合させています。
さらに、『Circle』『High-Rise』『Battle Royale』なども、極限状態における人間の選択や暴力性を描いたという点で類似性があり、本作と並行して語られることが多いです。
ジャンルとしては、サスペンス、ディストピア、心理スリラー、そして社会派SFという複数の側面を持ち、観る人によってさまざまな角度で比較できる作品です。
続編情報
『プラットフォーム』には正式な続編『プラットフォーム2(原題:El hoyo 2)』が存在します。
2024年10月4日にNetflixで独占配信され、前作の前日譚として“穴”の起源や初期構造に焦点を当てた物語が描かれました。監督は前作と同じくガルデル・ガステル=ウルティアが続投し、脚本にも再びペドロ・リベロが参加しています。
キャストは刷新され、ミレナ・スミット、ホヴィク・ケウチケリアン、ナタリア・テナらが主要人物として登場。新たな視点で“システムの支配構造”を掘り下げ、より政治的・哲学的な問いが強調される内容となっています。
批評家の評価は分かれ、The Guardianは2/5、RogerEbert.comは1.5/5、IndieWireはC+といった辛口なレビューもある一方、視聴者からは好意的な反応も多く、配信1週間で3,260万時間再生という高視聴数を記録しました。
なお、現時点では第3作やスピンオフの公式発表はありません。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『プラットフォーム』は、単なるサバイバルスリラーの枠を超えて、人間性と社会のあり方に深い問いを投げかける作品です。
極限状態でむき出しになる欲望と恐怖、そしてその中でもなお他者への思いや希望を捨てきれない姿が描かれ、観る者の倫理観や価値観を揺さぶります。
「なぜ人は分け与えることができないのか?」「制度は人を救うのか、それとも壊すのか?」という疑問が、作品全体を通して静かに、しかし強く突きつけられます。
ラストシーンの解釈も観る者によって異なり、余韻の深さが本作の強みとなっています。見終わったあとに“自分ならどうするか”を考えずにはいられない、まさにディスカッションを促す映画といえるでしょう。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
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本作の最大の特徴は、“縦型の階層構造”を社会の縮図として描いた点にあります。上の者は食べ尽くし、下に行くほど飢えるという構造は、単なる設定にとどまらず、現代社会の構造的不平等を象徴しています。
主人公ゴレンの変化は「観察者→適応者→変革者」へと推移しており、個人の内面変化を通じた“希望の提示”とも受け取れます。彼が最後に選んだ行動は、暴力でも支配でもない、ある種の“贈与”であり、その象徴性は深い意味を持ちます。
パンナコッタや少女の存在は、現実と幻想の境界線を曖昧にする象徴的要素として機能しています。特に少女が本当に存在したかどうかは明示されておらず、観る者に委ねられた構造になっています。
ラストにおいてゴレンが自らを犠牲にして“メッセージ”を託す姿勢は、個人の行動がシステムを揺るがすことができるのかという大きな問いを内包しており、単なる終末ではなく「始まりとしての終わり」として解釈することも可能です。
ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)
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