『NOPE/ノープ』とは?|どんな映画?
『NOPE/ノープ』は、カリフォルニアの牧場を舞台に、空に潜む“何か”の正体を追い、証拠を「撮ってやる」と執念を燃やす兄妹の奮闘を通じて、「見る/見られる」という行為の暴力性とショービジネスの欲望をあぶり出すSFスリラー。ジョーダン・ピール監督ならではの社会的視点とウェスタンの風合い、IMAX級スペクタクルと怪談めいた不穏さが同居する、一言でいえば“視線と見世物の恐怖を体感させるUFO神話ホラー”だ。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | Nope |
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タイトル(邦題) | NOPE/ノープ |
公開年 | 2022年 |
国 | アメリカ |
監 督 | ジョーダン・ピール |
脚 本 | ジョーダン・ピール |
出 演 | ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、スティーヴン・ユァン、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレア |
制作会社 | Monkeypaw Productions、Universal Pictures |
受賞歴 | 第54回NAACPイメージ・アワード 優秀監督賞(ジョーダン・ピール)ほかノミネート多数 |
あらすじ(ネタバレなし)
カリフォルニア州の人里離れた山間部で牧場を営む兄妹・OJとエメラルド。彼らの家業は、映画やテレビに馬を提供する“ハリウッドの馬の調教師”だ。しかし、父が謎の事故で命を落として以来、牧場の周辺では不可解な現象が頻発するようになる。空の彼方でうごめく正体不明の存在、突然の停電、動物たちの異常な行動…。これらは偶然なのか、それとも何者かの意図なのか?
真実を突き止めるため、兄妹は仲間とともに“証拠”をカメラに収めようと試みる。やがて、彼らは想像を超える出来事に直面し、目撃者であることの意味と代償を思い知らされていく――。
予告編で感じる世界観
※以下はYouTubeによる予告編です。
独自評価・分析
ストーリー
(3.5点)
映像/音楽
(4.5点)
キャラクター/演技
(4.0点)
メッセージ性
(4.0点)
構成/テンポ
(3.0点)
総合評価
(3.8点)
ストーリーは“見世物”を巡る寓意が鋭い一方、情報の伏せ方がやや説明不足に感じられる場面もあり、物語の推進力は強弱が出るため3.5点とした。
映像/音楽は、広大な空間を切り取る夜景撮影やIMAXスケールの没入感、効果音設計の巧みさが突出。恐怖と驚嘆を同時に喚起する演出は近年屈指で4.5点。
キャラクター/演技は、寡黙なOJと快活なエメラルドの対比、助演陣の個性が物語を支える。人物造形は十分に魅力的で4.0点。
メッセージ性は、「見る/見られる」関係の暴力性や搾取の構造をジャンル娯楽に落とし込んだ手付きが見事で4.0点。
構成/テンポは第一幕の不穏さから第二幕の準備、第三幕の見せ場へと盛り上げるが、中盤に滞留感が生じるため3.0点。総合では3.8点とし、突出する視覚体験と主題性を高く評価しつつ、物語運びのムラを減点要因とした。
3つの魅力ポイント
- 1 – 「見る/見られる」の恐怖
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証拠映像への渇望と視線の暴力性を物語の推進力に据え、観客自身の“見たい”欲求をも巻き込んで不安を増幅させる構図。視覚の主導権が入れ替わるたびに、対象と観察者の関係が反転し、テーマが体感として迫ってくる。
- 2 – 空を撮る設計(映像×音)
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昼夜の大スケールな空間把握、広角とロングで“何も映らない”余白を怖さに変換。突発的な静寂や低周波のうねり、環境音の欠落を使う音設計が、画面外の存在感を可視化し、巨大さと未知の距離感をリアルに感じさせる。
- 3 – ジャンル融合と開示の妙
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ウェスタンの開拓神話、モンスターパニック、ショービジネス風刺をレイヤー化。段階的な情報開示と“正対/回避”という行動原理のルールづけで、恐怖から対処へと物語を反転させる設計が、観客の期待を巧みに裏切る。
主な登場人物と演者の魅力
- オーティス・Jr “OJ”・ヘイウッド(ダニエル・カルーヤ)
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寡黙で責任感の強い兄。父の死後、家業である牧場を守るため奔走する。ダニエル・カルーヤは抑制された表情と間合いで、内に秘めた恐怖と覚悟をにじませ、観客を物語の現実感に引き込む。
- エメラルド “Em”・ヘイウッド(キキ・パーマー)
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自由奔放で社交的な妹。兄とは対照的に言葉巧みで行動的。キキ・パーマーは生き生きとした存在感とテンポの良いセリフ回しで、物語に軽快さとエネルギーを与える。
- リッキー “ジュープ”・パーク(スティーヴン・ユァン)
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元子役で現在はテーマパークを経営する男。過去のトラウマを抱えながらも、奇妙な現象を商機として捉える複雑な人物像を演じる。スティーヴン・ユァンは柔らかな笑顔の裏に潜む不穏さを見事に表現する。
- アンジェル・トーレス(ブランドン・ペレア)
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家電量販店の映像機器スタッフ。兄妹の計画に巻き込まれながらも重要な役割を果たす。ブランドン・ペレアは軽妙なユーモアと誠実さを併せ持つ演技で、物語に親しみやすさを加える。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
テンポの速い展開や派手なアクションを期待している人
ホラー映画に明確な説明や結末の全解明を求める人
登場人物の心理やテーマ性よりも単純な恐怖演出を重視する人
静かなシーンや余白の多い映像表現が苦手な人
映像の暗さや音響効果に敏感でストレスを感じやすい人
社会的なテーマや背景との関係
『NOPE/ノープ』は、単なるUFOホラーの枠を超え、現代社会における「見世物化」や「視線の暴力」というテーマを軸に据えた作品だ。物語に登場する牧場経営や映画撮影は、映像産業と観客の関係を示す象徴的な舞台装置であり、「何かを見たい」という欲求と、それを提供することで利益を得る構造の両面が描かれる。
特に兄妹が挑む“証拠映像の撮影”は、SNS時代における承認欲求や情報の価値を想起させる。現代では衝撃的な映像や事件映像が拡散され、しばしば被写体の人権や安全が二の次になるケースがある。この映画は、その「見る」行為の裏に潜む搾取の構造を、怪異との対峙という形で浮かび上がらせている。
また、劇中のリッキー“ジュープ”・パークの過去のエピソードは、ショービジネスの残酷さとトラウマの商品化を示す重要な要素だ。彼の経験は、エンターテインメントの現場で起こる事故や虐待が、その後も語り草や見世物として消費され続ける現実を反映している。
さらに、作品全体を通して「自然との関係」も重要なテーマとなっている。空に潜む未知の存在は、制御不能な自然や捕食者のメタファーとして描かれ、人間の支配欲と無力さを同時に提示する。これは気候変動や動物保護の議論とも通じる要素であり、人間が自然をコントロールできるという幻想への批判とも読める。
総じて、本作は娯楽作品としてのスリルと同時に、メディア消費社会への警鐘や人間と自然との距離感といった社会的メッセージを多層的に織り込み、観客に“なぜ自分はこれを見ているのか”という問いを突きつけてくる。
映像表現・刺激的なシーンの影響
『NOPE/ノープ』は、広大な空と大地を生かしたシネマスコープ的映像美が大きな魅力であり、特に夜間シーンでの撮影技術が際立っている。IMAXカメラを用いた暗所撮影は、視認できる情報を最小限に抑えながらも奥行きとスケールを感じさせ、観客に“そこに何かがいる”という感覚を与える。また、雲や光の動きなど微細なビジュアル変化が恐怖の伏線として巧みに機能している。
音響面では、突如訪れる静寂や環境音の欠落が印象的で、視覚では捉えきれない存在感を音で補完している。遠くから迫る低周波音や、不規則な金属音、風のうなりなどが、未知の存在の不気味さを増幅させる効果を生んでいる。
刺激的な描写としては、直接的な流血や過激な暴力シーンは控えめながら、一部に不意を突くショッキングな瞬間や、観客の想像力を刺激する不穏なビジュアルが含まれる。特に捕食シーンや動物の挙動に関する描写は、間接的であっても緊張感が強く、人によっては不快感を覚える可能性がある。
ホラー的要素は、ゴア表現よりも“見えないものへの恐怖”を中心に構築されており、映像外の空間や暗闇を想像させる演出が多い。そのため、ジャンプスケアや派手なアクションを期待する観客には落ち着いた印象を与えるかもしれないが、逆に心理的な圧迫感や余韻を重視する人には強く響くだろう。
視聴時の心構えとしては、映像と音の細部に意識を向けることで、本作の恐怖演出やテーマ性がより深く味わえる。過激さよりも、じわじわと迫る不安と緊張感を楽しむつもりで臨むと、監督の意図する体験により近づけるはずだ。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
『NOPE/ノープ』はジョーダン・ピール監督によるオリジナル脚本の単独作。小説や漫画などの原作はなく、シリーズ化・スピンオフ化もされていません(本見出しでは続編情報の記載を割愛)。
監督のフィルモグラフィ的な“つながり”という意味では、同じく社会的テーマをホラー/スリラーに落とし込んだ『ゲット・アウト』(2017)と『アス』(2019)が挙げられます。いずれも直接のストーリー上の連続性はありませんが、「視線」「搾取」「見世物化」といった主題の系譜を押さえるうえで参照価値が高い作品です。
また、本作はジャンル上の参照点として、UFOや未知の存在を扱うSF/ホラー作品群へのオマージュや対話を内包しています。たとえば“空を見上げる恐怖”や“未知との遭遇をショー化する倫理”といった観点は、エイリアン系スリラーやモンスターパニックの歴史的文脈を意識させるものです。ただし、『NOPE』はそれらの要素をウェスタンの風合いや“見られる/見せる”というメタ視点と掛け合わせ、独自の読後感をもたらしています。
観る順番のおすすめ:本作単体で理解・鑑賞可能です。より批評的な読み解きを楽しみたい方は、鑑賞前後に『ゲット・アウト』『アス』を併せて見ると、監督の主題の変遷(人種・階級・メディア視線の問題)が立体的に見えてきます。順番に厳密な決まりはありませんが、公開年順(2017→2019→2022)で追うと作家性の深化が把握しやすいでしょう。
原作との違いについて:原作物ではないため“改変点”は存在しません。むしろ、映画というメディアでしか体験できない画面の余白・音響・視点操作が物語そのものを形作っており、ここが映像作品ならではの個性になっています。
類似作品やジャンルの比較
『NOPE/ノープ』の「空=見えない恐怖」「見世物化への批評」「UFO/未知の存在」といった要素に近い、同ジャンル/同テーマのおすすめをピックアップ。共通点と相違点を簡潔にまとめます(内部リンクは事前準備の結果がないためプレーンテキストで記載)。
- 『誰も助けてくれない』(2023):共通点=宇宙的脅威×一人称に近い体験設計/セリフを極力抑えたサスペンス。相違点=ホームインベージョン的な密度が高く、心理スリラー寄り。
これが好きなら:静かな恐怖と“音の使い方”が刺さった人に。 - 『10 クローバーフィールド・レーン』(2016):共通点=外界の“何か”をめぐる不確実性と、情報を小出しにする緊張感。相違点=密室サバイバル色が強く、人間関係の圧迫が主軸。
これが好きなら:少ないカットで不穏を積む演出が好みの人に。 - 『Phoenix Forgotten/フェニックス・フォーゴットン』(2017):共通点=UFO目撃談を映像メディアの文法で再構成。相違点=フェイクドキュメンタリー(found footage)としてのリアリティ追求が中心。
これが好きなら:証拠映像や記録媒体の“視点”に惹かれた人に。 - 『サイン』(2002):共通点=家族ドラマと未知の脅威の交錯、信仰や恐怖の受け止め方。相違点=信仰譚としての寓話性が強く、クライマックスは感情のカタルシス重視。
これが好きなら:農地×空の不穏、日常に侵入する“異常”が響いた人に。 - 『アス』(2019)/『ゲット・アウト』(2017):共通点=ジョーダン・ピール監督作に通底する社会風刺とジャンル融合。相違点=『アス』はドッペルゲンガーの寓話、『ゲット・アウト』は人種構造のスリラー。
これが好きなら:テーマ読解とエンタメの両立に魅力を感じた人に。 - 『アンダー・ザ・スキン』(2013):共通点=異質な存在の“感覚的な異物感”を映像・音で体験させる設計。相違点=台詞少なめのアート寄りで、解釈の余白がより大きい。
これが好きなら:説明より体感・イメージで恐怖を味わいたい人に。
総じて、『NOPE』が刺さる人は「不確実性の演出」「視点(誰が見るか/見せるか)」「音と余白の恐怖」に魅力を感じる傾向。アクション主導型よりも、じわじわ広がる不穏とテーマの余韻を楽しめる作品群が相性良好です。
続編情報
現時点で『NOPE/ノープ』の続編は公式発表されていません。ただし、監督のジョーダン・ピールがインタビュー等で、本作に登場すると言及された“ある人物”にまつわる物語の余地を示唆しており、世界観の拡張可能性は語られています。したがって、「公式発表がない=続編なし」とは断定せず、動向を見守る段階です。
1. 続編の有無:未発表(示唆はあり)。
2. タイトル/公開時期:未定(続編としての正式情報なし)。
3. 監督・キャスト・制作体制:未定(続編として確定した体制の発表はなし)。
補足:ジョーダン・ピールの次回監督作に関する業界報道はあるものの、それが『NOPE』の続編かどうかは明らかにされていません。確定情報が出た際には、本稿を更新してお知らせします。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『NOPE/ノープ』は、単なるSFスリラーやホラーの枠を超え、人間の好奇心とその代償という普遍的なテーマを描き出しています。物語の中で描かれる未知との遭遇や、それを映像として切り取ろうとする行為は、現代社会のメディア消費やセンセーショナリズムに対する批評とも受け取れます。
また、登場人物たちが直面する選択や行動は、恐怖に立ち向かう勇気と同時に、名誉や利益を求める人間の欲望を鮮烈に映し出しています。視聴後には、「私たちは何を代償にしてでも見たいのか?」という問いが静かに残ります。
加えて、映画のビジュアルや演出によって生み出されるスケール感と緊張感は、物語が終わった後も余韻として観客の心に響き続けます。広大な空と大地、そしてその中に潜む得体の知れない存在は、日常の中に潜む未知や危険を象徴しており、現実世界に対する新たな視点を与えてくれるでしょう。
最終的に、本作は恐怖と興奮、そして深い思索を同時に呼び起こす作品であり、その余韻はエンドロールが終わった後も長く続きます。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
OPEN
『NOPE/ノープ』における最大の核心は、空に潜む“存在”そのものが単なる未知の生物ではなく、人間の「見る」欲望の象徴として機能している点です。物語の中で登場人物たちは、その存在を撮影することに執着しますが、その行為こそが危険を引き寄せる要因となっています。これは現代のメディア社会において、視聴率や再生数のために危険や悲劇すら消費してしまう構造への批判とも受け取れます。
また、牧場で起こる一連の出来事や動物の描写は、自然界における捕食関係や生存本能を比喩的に示しており、特に冒頭で描かれる猿の逸話は、制御不能な存在に対する人間の無力さを示唆しています。このエピソードは本筋と直接関係がないように見えて、実は「見世物としての暴力」というテーマに直結しており、物語全体の警鐘として機能しています。
さらに、クライマックスにおける存在の正体の変容は、捕食者でありながらも観客を必要とする「ショー」の性質を持っているように描かれています。これにより、恐怖の対象が単なる怪物ではなく、人間社会の縮図として立ち現れるのです。
こうした多層的なモチーフの積み重ねにより、本作は単なるスリラーを超えて、観客自身が何を求め、何を代償にしているのかを問いかける作品として成立しています。結末の解釈はあえて曖昧にされており、見る人の価値観や経験によって大きく異なる余韻を残します。
ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)
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