映画『MEN 同じ顔の男たち』(2022)レビュー|寓話的ホラーの解説・感想

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目次

『MEN 同じ顔の男たち』とは?|どんな映画?

MEN 同じ顔の男たち』は、アレックス・ガーランド監督が手掛けた心理ホラー映画で、A24製作による独特な映像美と不穏な空気感が漂う作品です。イギリスの片田舎を舞台に、夫を亡くした女性が心の傷を癒すために訪れた村で、同じ顔をした複数の男性と遭遇するという異様な体験を描きます。

ジャンルとしてはフォークホラーや心理サスペンスの要素を持ち、観る者に強烈な不安感と寓話的なメッセージを残します。一言で表すなら、「美しい田園風景の中で繰り広げられる、不可解かつ象徴的な恐怖の物語」です。

基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報

タイトル(原題)Men
タイトル(邦題)MEN 同じ顔の男たち
公開年2022年
イギリス
監 督アレックス・ガーランド
脚 本アレックス・ガーランド
出 演ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥ
制作会社A24、DNA Films
受賞歴カンヌ国際映画祭「監督週間」正式出品

あらすじ(ネタバレなし)

ロンドンに暮らすハーパーは、夫を突然の悲劇で亡くし、心の整理をつけるため田舎町へと旅立ちます。そこで出会ったのは、どこか親切そうでありながらも、妙に距離感の近い地主の男性。静かな村の空気に包まれながらも、彼女は周囲の住人や出来事に言葉にできない違和感を覚え始めます。

やがて日常に小さな綻びが広がり、訪れる人物たちが次第に奇妙な共通点を見せはじめる……。この不可解な現象の正体とは何なのか? 観客はハーパーと共に、美しい景色の奥に潜む“何か”の存在を探ることになります。

予告編で感じる世界観

※以下はYouTubeによる予告編です。

独自評価・分析

ストーリー

(3.0点)

映像/音楽

(4.5点)

キャラクター/演技

(4.0点)

メッセージ性

(3.5点)

構成/テンポ

(3.0点)

総合評価

(3.6点)

評価理由・背景

本作は寓話的な構造と象徴性の強い物語展開が特徴的で、テーマ性の深さは評価できる一方、ストーリーは抽象性が高く観客を選ぶ内容となっています。そのためストーリー評価はやや控えめの3.0点としました。

映像と音楽はA24らしい緻密な構図や光の演出、環境音を活かしたサウンドデザインが光り、強い没入感を生み出しています。特に終盤のビジュアルインパクトは圧倒的で、4.5点と高評価。

キャラクターや演技面では、主演ジェシー・バックリーの感情表現と、ロリー・キニアの多役演技が圧巻。演技力が作品の不気味さと説得力を支えています。

メッセージ性は男女間の構造的な問題や社会的テーマを内包しており、考察の余地を多く残しますが、寓意が難解で理解しにくい部分もあり、3.5点としました。

構成・テンポはゆったりと進むため緊張感の波が少なく、中盤以降の冗長さを感じる観客もいるでしょう。そのため3.0点にとどめています。

3つの魅力ポイント

1 – 不気味さと美しさが同居する映像美

イギリスの田園風景を舞台に、自然光や色彩を巧みに操った映像は、美しさの中に潜む不安を際立たせます。風景そのものが物語の一部となり、観客の感情を揺さぶります。

2 – ロリー・キニアの多役演技

同じ顔をした複数の男性をすべて演じ分けるロリー・キニアの怪演が圧巻。表情や声色の微妙な変化によって、観る者に異様な現実感と恐怖を与えます。

3 – 社会的テーマを内包する寓話性

男女間の力関係や社会構造への批評を寓話的に描き、直接的な説明を避けつつも強烈なメッセージを残します。解釈の余地が広く、観客同士の議論を呼び起こす力を持っています。

主な登場人物と演者の魅力

ハーパー・マーロウ(ジェシー・バックリー)

物語の主人公。夫の死という心の傷を癒すために田舎町を訪れる女性。ジェシー・バックリーは繊細かつ力強い演技で、ハーパーの内面の葛藤や恐怖をリアルに体現しています。観客を彼女の視点に引き込み、物語の感情的な軸を支える存在です。

村の男性たち(ロリー・キニア)

村に暮らす複数の男性たち。驚くべきことに全員が同じ顔をしており、地主、神父、警官、少年などさまざまな役柄をロリー・キニアが一人で演じ分けています。表情や口調のわずかな差異でキャラクターの性格を描き分ける巧みな演技が、作品の不気味さとテーマ性を際立たせています。

ジェフリー(ロリー・キニア)

ハーパーが滞在するカントリーハウスの地主。外見は陽気で親切そうだが、時折見せる不可解な言動が物語の不安感を増幅させます。ロリー・キニアはこのキャラクターを通じて、親しみやすさと得体の知れなさを巧みに融合させています。

視聴者の声・印象

映像が美しくも不気味で引き込まれた。
正直、展開が難解すぎて理解が追いつかなかった。
ロリー・キニアの多役演技が圧巻だった。
終盤の演出がグロテスクで苦手だった。
考察しがいのあるテーマ性が印象的だった。

こんな人におすすめ

寓話的で解釈の幅が広いホラー作品を楽しみたい人

ミッドサマー』や『ヘレディタリー/継承』のようなA24製作のエレベーテッドホラーが好きな人

映像美と不気味さが同居する独特な雰囲気に惹かれる人

役者の多役演技や個性的なキャラクター表現を重視する人

社会的テーマや人間関係を寓話的に描いた作品を深く考察したい人

逆に避けたほうがよい人の特徴

わかりやすいストーリー展開や明快な結末を求める人
ホラーに過激な描写やグロテスクなシーンが苦手な人
寓話的・象徴的な演出よりも現実的な描写を好む人
説明的なセリフや背景説明が少ない作品にストレスを感じる人
静かなテンポや長回しの映像に退屈してしまう人

社会的なテーマや背景との関係

『MEN 同じ顔の男たち』は、物語全体を通して男女間の権力構造やジェンダーにまつわる社会的テーマを強く意識させる作品です。特に、主人公ハーパーが出会う男性たちがすべて同じ顔をしているという設定は、女性が社会の中で直面する「同質化された抑圧」や「個人を無視した構造的な偏見」の象徴として機能しています。

村の男性たちの態度や言動は、それぞれが異なる立場や役割を持ちながらも、最終的には同じパターンの支配性や無理解を示します。これは現実世界においても、異なる人物や状況であっても女性が繰り返し経験する偏見や差別のパターンを反映しています。この構造的な繰り返しは、観客に「これは特定の個人の問題ではなく、社会全体に根付く問題なのだ」と理解させる力を持っています。

また、ハーパーの過去や夫との関係性が示すように、本作は家庭内に潜む精神的支配やモラルハラスメントの問題も内包しています。個人的なトラウマが、社会的背景や文化的価値観と絡み合うことで、被害者が抱える孤立感や罪悪感が強調されています。

さらに、物語後半の象徴的かつ身体的な描写は、「暴力や抑圧は形を変えて何度でも再生産される」というメッセージを示唆しています。これはジェンダー問題に限らず、人種差別や階級差別といった他の社会的不平等にも通じる構造です。

このように、本作は単なるホラー映画ではなく、現代社会における抑圧のメカニズムを寓話的に描いた作品であり、観客に社会的構造の問題を改めて問いかけています。

映像表現・刺激的なシーンの影響

『MEN 同じ顔の男たち』は、イギリスの田園風景を舞台にした美しい自然描写と不穏な演出のコントラストが際立つ作品です。鮮やかな緑や柔らかな自然光を活かした映像は、一見すると穏やかで心地よいものですが、その美しさの裏側に潜む不安感を巧みに増幅させています。特に長回しや静寂を利用したシーン構成は、観客をじわじわと心理的に追い詰める効果を持っています。

音響面では、環境音やエコーを多用し、主人公の心理状態を視覚的・聴覚的に体感させる手法が光ります。鳥のさえずりや風の音といった自然音が、ある瞬間から不気味なノイズや歪んだ残響へと変化することで、視聴者に緊張感を植え付けます。

一方で、本作には刺激的でショッキングな描写も含まれます。終盤にかけてのボディホラー的な特殊効果や、肉体変容を伴う連続的な描写は、視覚的インパクトが非常に強く、苦手な人には精神的な負担となる可能性があります。これらの表現は物語のテーマ性や象徴性と密接に結びついており、単なる恐怖演出ではなくメッセージを補強する役割を担っています。

暴力的なシーンや性的に解釈されうる象徴表現も一部存在しますが、直接的な描写よりも暗喩や比喩的な演出が中心です。そのため、露骨さよりも不安定で不可解な印象を残す構造となっています。

視聴時には、映像美と精神的負荷の両面を受け止める心構えが必要です。映像表現は間違いなく高品質で芸術的ですが、その美しさの中に潜む恐怖や不快感が、観る人によっては長く記憶に残る体験となるでしょう。

関連作品(前作・原作・メディア展開など)

本作はアレックス・ガーランド監督によるオリジナル脚本の単独作品で、シリーズや原作となる小説・コミックは存在しません。したがって観る順番の指定は不要で、本作だけで完結した体験が得られます。

一方で、監督の過去作を辿るとテーマや語り口の連続性が見えてきます。以下は「作家性の流れ」を掴むうえでの関連作です。

  • 『エクス・マキナ』:人間と人工知能の境界をめぐる対話劇。閉鎖空間での心理戦や寓話性という文脈で本作と響き合います。
  • 『アナイアレイション -全滅領域-』:理解を超えた異質な存在との遭遇を、身体性と変容のイメージで描く点が近接。
  • 『ザ・ビーチ』:監督作ではないものの、ガーランドの脚本家・小説家としての原点を知る参考作。共同体と逸脱のテーマに通底があります。

また、製作の系譜としてはA24が手がけた『ヘレディタリー/継承』や『ミッドサマー』の“エレベーテッド・ホラー”にも接点があり、説明を省いた象徴表現・不穏な空気感・解釈の余白という鑑賞体験が共通します。ただし物語上の直接的なつながりはありません。

まとめると、まずは本作を単体で鑑賞し、その後に『エクス・マキナ』→『アナイアレイション -全滅領域-』の順で監督作を追うと、作家的なモチーフや演出傾向の深化が見えてきます。

類似作品やジャンルの比較

『MEN 同じ顔の男たち』は、寓話性の強い心理ホラー/フォークホラーの系譜に位置づけられます。以下では、同ジャンル・同テーマのおすすめ作品と、共通点相違点を簡潔に整理します。

  • ミッドサマー
    共通点=日常の光の下で不穏さを増幅する演出、共同体を介した寓話性。
    相違点=『MEN』は個人的トラウマとジェンダー構造の象徴性がより前面。
  • ヘレディタリー/継承
    共通点=心理的恐怖と家庭の崩壊を通じた「見えない力」の描写。
    相違点=『MEN』は同一顔の多役というメタファーで抑圧の反復性を強調。
  • 『アナイアレイション -全滅領域-』
    共通点=アレックス・ガーランドらしい身体変容と象徴表現。
    相違点=SF色の強い探索譚に対し、『MEN』は内面と神話性に寄った心理劇。
  • 『ラストナイト・イン・ソーホー』
    共通点=女性視点の不穏さと街/空間が孕む記憶の圧力。
    相違点=スタイリッシュなスリラー寄りで、恐怖の質感はより娯楽的。
  • キャンディマン
    共通点=社会批評(構造的抑圧)をホラーに織り込む姿勢。
    相違点=都市伝説的神話の再解釈で、物語の直截さは『MEN』より明瞭。
  • ウィッチ『ウィッカーマン』
    共通点=フォークホラーの祖型。自然/共同体/信仰が恐怖の媒体に。
    相違点=『MEN』は個人的罪責感とジェンダー表象を主軸に再構築。

「これが好きならこれも」
象徴的ホラーが好みなら『ミッドサマー』『ウィッチ』、社会的テーマと直結した恐怖が刺さるなら『キャンディマン』、ガーランドの作家性を深掘りしたいなら『アナイアレイション -全滅領域-』へ。

続編情報

現時点で確認できる範囲では、本作の続編(制作年が後の作品/製作中を含む)に関する公式発表は確認できていません。断定は避けますが、信頼できる情報源での告知は未確認です。

続編情報はありません。

今後、公式アナウンスや製作発表があれば更新します。

まとめ|本作が投げかける問いと余韻

『MEN 同じ顔の男たち』は、ホラーという枠組みを超えて社会的構造や人間関係の根深い問題に切り込む寓話的作品です。村に暮らす全ての男性が同じ顔をしているという異様な設定は、個々の人格を超えて社会に根付く抑圧や偏見の普遍性を象徴し、観る者に深い印象を残します。

美しい自然と不穏な空気が同居する映像表現、緻密に設計された音響、そして俳優陣の圧倒的な演技力が相まって、観客は主人公ハーパーの視点からじわじわと追い詰められる感覚を味わいます。特にロリー・キニアが一人で複数の役を演じ分ける構成は、テーマ性と演出意図が高次元で融合した見事な試みです。

本作はまた、暴力や支配、ジェンダーの問題を直接的な説明ではなく、象徴と暗喩によって描き出します。このため解釈は観客に委ねられ、鑑賞後には「自分が何を見たのか」「それは何を意味するのか」という問いが残ります。この問いは単なる物語の理解にとどまらず、現実社会における構造的な問題や個人の在り方への反省にもつながります。

結末までの道のりは決して容易ではなく、抽象性や衝撃的な表現に戸惑う人もいるでしょう。しかし、その挑戦的な構成と余韻は、他のホラー作品では得難い深い鑑賞体験を与えてくれます。不安と美しさ、そして問いかけが観る者の心に長く残る――それこそが本作最大の魅力であり、鑑賞後も思索を促し続ける理由です。

ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)

OPEN

本作で最も印象的なのは、村の全ての男性が同じ顔をしているという異様な設定です。これは単なる奇妙な演出ではなく、ハーパーが直面する「抑圧のパターン化」を象徴していると考えられます。個々の男性キャラクターは立場や性格こそ異なりますが、最終的には同質の支配性や無理解を示し、彼女に圧力をかけます。これは、現実社会においても形を変えて繰り返される構造的な問題の縮図です。

また、物語後半に登場する「連続的な出産」シーンは、暴力や抑圧が形を変えて自己再生を繰り返す様子を視覚化したものと解釈できます。グロテスクな映像でありながら、その背後には「加害性は姿を変えても連鎖し続ける」というテーマが潜んでいます。この描写は観客に強い不快感を与えると同時に、象徴性を読み解く鍵にもなっています。

さらに、ハーパーの夫の死に関する回想シーンも重要です。彼の死が事故なのか自殺なのか、あるいは彼女への罪悪感を伴う出来事なのかは明確にされません。この曖昧さは、被害者が抱える「自責感」と「加害者の責任」が複雑に絡み合う現実を反映しており、観客に答えを委ねる構造になっています。

宗教的・神話的なモチーフも見逃せません。緑の男(Green Man)やシェラフィムのような彫刻は、自然と再生、そして生贄の循環を想起させます。これらは、村そのものが古代的な儀式や価値観に支配されていることを示唆し、ハーパーの孤立感と逃げ場のなさを強調します。

結末のハーパーの表情は、単純な解放とも絶望とも取れる多義的なもので、観客の解釈を大きく左右します。本作の魅力は、このように確固たる答えを提示せず、観る者の経験や価値観によって異なる読後感を与える点にあります。

ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)

OPEN
あの村の男たち、みんな同じ顔って怖すぎるよ…君もゾッとしなかった?
うん、でも演じ分けがすごくて見入っちゃったよ。地主とか神父とか、全部同じ人とは思えなかった。
最後の方の“あれ”は衝撃的だったな…。あれって抑圧が形を変えて続くって意味なのかな。
そうだと思う。しかも映像のインパクトが強すぎて、頭から離れないんだ。
主人公が最後に見せた表情…あれは解放だったのか、それとも諦めだったのか…。
僕的には「お腹すいた」って顔に見えたけどな。
そんなわけあるか!どんな解釈力してるんだよ君は。
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