『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』とは?|どんな映画?
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は、スティーブン・キングの名作ホラー小説を原作とした、少年たちが“それ”と呼ばれる正体不明の怪物と対峙する恐怖体験を描いた心理ホラー映画です。
アメリカの田舎町デリーを舞台に、子どもたちが連続失踪事件の謎を追ううちに、「ペニーワイズ」と名乗る不気味なピエロに辿り着くという、80年代ノスタルジーと恐怖の象徴が融合した作品です。
全体の雰囲気は不気味で不穏ながら、友情や成長も描かれる“ジュブナイル×ホラー”の要素を持ち、『スタンド・バイ・ミー』+『エルム街の悪夢』のような感覚で楽しめます。
一言で表すならば――「恐怖と成長が交差する、“あの夏”の悪夢」。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | It |
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タイトル(邦題) | IT/イット “それ”が見えたら、終わり。 |
公開年 | 2017年 |
国 | アメリカ |
監 督 | アンディ・ムスキエティ |
脚 本 | チェイス・パーマー、キャリー・フクナガ、ゲイリー・ドーベルマン |
出 演 | ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルド、フィン・ウルフハード、ソフィア・リリス ほか |
制作会社 | ニュー・ライン・シネマ、ヴァーティゴ・エンタテインメント、ライドバック |
受賞歴 | MTVムービー&TVアワード「最も恐ろしい演技賞」受賞、サターン賞複数部門ノミネート |
あらすじ(ネタバレなし)
舞台は1988年、アメリカの田舎町デリー。ある嵐の夜、少年ジョージーが謎の失踪を遂げる――。
それから1年後、兄のビルと仲間たちは、町で続発する不可解な失踪事件と不気味な幻覚の数々に巻き込まれていく。次第に彼らは、すべての現象が“それ”と呼ばれる正体不明の存在に繋がっていることに気づきはじめる。
果たして“それ”の正体とは? なぜ子どもたちばかりが狙われるのか?
仲間たちの絆と勇気を武器に、彼らはこの謎に立ち向かおうとする――。
ひと夏の冒険と恐怖が交錯する物語の始まりを、ぜひ見届けてください。
予告編で感じる世界観
※以下はYouTubeによる予告編です。
独自評価・分析
ストーリー
(4.0点)
映像/音楽
(4.5点)
キャラクター/演技
(4.0点)
メッセージ性
(3.5点)
構成/テンポ
(3.5点)
総合評価
(3.9点)
スティーブン・キング原作の濃密な恐怖を、現代的な映像美とともに再構築した本作は、単なるジャンプスケアに頼らず“空気そのものの不穏さ”で観客を追い詰める手法が光ります。特にペニーワイズの登場シーンでは、音響と編集が恐怖を増幅させる秀逸な設計となっており高評価です。
一方で、ホラー演出に重きを置いた分、少年たちの成長や内面描写がやや描き切れていない面も見受けられ、メッセージ性や構成面で減点対象に。とはいえ全体としては、ジャンルホラーの中でも完成度の高い一本と言えるでしょう。
3つの魅力ポイント
- 1 – ペニーワイズの圧倒的存在感
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本作最大の特徴は、ビル・スカルスガルド演じる“ペニーワイズ”の異様さにあります。ピエロという子ども向けの存在が、不気味で予測不能な恐怖の象徴として機能しており、彼の表情、声、仕草のすべてが観客の恐怖を煽ります。「次は何をするのか分からない」緊張感が持続するキャラクターです。
- 2 – 少年たちの絆と成長
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ホラーでありながら、物語の軸には“仲間たちの絆”と“子どもから大人になる瞬間”が描かれています。それぞれ家庭や学校に問題を抱えた少年少女たちが、恐怖に立ち向かう中で心を通わせていく姿は、まるで青春映画のような温かさを持ちます。
- 3 – 80年代ノスタルジーの再現力
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舞台となる1980年代のアメリカの町並み、小道具、音楽などが丁寧に再現されており、当時を知る世代には懐かしさを、知らない世代には新鮮さを与えてくれます。『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』を彷彿とさせる空気感が、恐怖とのギャップを生み出す魅力のひとつです。
主な登場人物と演者の魅力
- ペニーワイズ(ビル・スカルスガルド)
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不気味なピエロとして登場する“それ”の具現化。ビル・スカルスガルドは、その異様な目の動きや口元の歪みを使って、CGに頼らず生身の演技で観客に恐怖を植え付けました。彼の静と動の切り替え、つかみどころのない雰囲気は、まさに“ペニーワイズそのもの”といえる存在感です。
- ビル・デンブロウ(ジェイデン・リーバハー)
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弟を失った悲しみを胸に抱きながらも、仲間を引っ張っていく少年。感情を抑えつつも確固たる意志を感じさせるジェイデン・リーバハーの演技は、物語の軸をしっかりと支えています。繊細さと勇気の両面を見せるキャラクター像が印象的です。
- ベバリー・マーシュ(ソフィア・リリス)
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家庭内暴力や学校でのいじめに耐えながらも、自分の信念を貫こうとする強い少女。ソフィア・リリスは大人びた表情と儚げな雰囲気を持ち合わせ、観客を惹きつけます。特に感情を押し殺しながら仲間に心を開いていく描写にはリアリティと説得力があります。
- リッチー・トージア(フィン・ウルフハード)
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お調子者でムードメーカー的存在。恐怖に直面しても皮肉や冗談を交えて空気を和ませる彼の存在が、物語のバランスを取っています。『ストレンジャー・シングス』でも知られるフィン・ウルフハードの抜群の演技タイミングが活きたキャスティングです。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
過激なホラー描写や恐怖演出が苦手な人
子どもが危険な目に遭う描写に強い抵抗がある人
テンポの速い展開やアクション性を重視する人
ピエロが登場する映像を直視できないほど苦手な人
物語のメッセージ性や深みを最優先に求める人
社会的なテーマや背景との関係
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』はただのホラー映画ではなく、子どもたちが抱える“現実の恐怖”を象徴的に描いた作品でもあります。本作の恐怖の根源である「それ(ペニーワイズ)」は、単に異形の存在というよりも、大人社会が見て見ぬふりをしている“問題そのもの”の象徴とも解釈できます。
物語の舞台であるデリーという町では、子どもたちの失踪が頻発しているにもかかわらず、大人たちはほとんど関心を持たず、まるでなかったことのように振る舞います。この描写は、社会における無関心や放置、そして弱者が置き去りにされる構造を痛烈に突いていると言えるでしょう。
登場する子どもたちは、それぞれ家庭や学校での虐待・いじめ・差別といった問題を抱えています。ペニーワイズは、それぞれの子どもが持つ“心の傷”や“恐怖”に付け込んで現れます。つまり、彼らの内面が作り出した恐怖が、具現化して襲ってくる構図です。この点からも、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は心理的ホラーとしての側面と、社会的な視座を併せ持った作品だといえるでしょう。
また、物語の時代設定である1980年代は、アメリカにおいて保守化と経済格差が進行した時期であり、家庭内暴力や地域社会の分断も表面化していた時代です。そうした社会背景が、子どもたちの孤独や恐怖をよりリアルに浮き彫りにし、“見えない恐怖”の正体に説得力を与えています。
本作の深層には、「恐怖は個人の中にあるだけでなく、社会構造そのものに根付いている」という重いメッセージが流れています。観客はペニーワイズに怯えるだけでなく、自分自身の記憶や経験、そして社会のあり方に無意識に向き合うことになるのです。
映像表現・刺激的なシーンの影響
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は、現代ホラーの中でも映像演出の完成度が高く、「何が映っているか」よりも「どう映すか」に強くこだわった作品です。特に、ペニーワイズの登場シーンは、突然のジャンプスケアではなく、じわじわと恐怖を積み上げていく演出が多用され、観る者の想像力をかき立てます。
色彩設計においては、町の景色がどこかくすんでいて静けさを感じさせる一方、ペニーワイズが現れる場面では極端に赤や暗闇が際立ち、視覚的な不安感を演出しています。また、音響面でも恐怖の予兆となる「静寂」と「不協和音」の使い方が巧みで、観客を心理的に追い込んでいくスタイルが印象的です。
ただし、本作には子どもが巻き込まれる暴力描写や流血シーンが複数存在し、感受性の強い人にとってはショックの大きい瞬間もあります。特に冒頭で描かれる少年ジョージーの失踪シーンは、本作のトーンを象徴するものであり、恐怖が“現実の中にある”という感覚を強調します。
性的な描写は明示的ではありませんが、登場人物のベバリーに対する周囲の視線や発言には、ジェンダーに対する無理解や偏見がにじんでおり、家庭内での支配的な関係性など、心理的に不快感を覚える場面も存在します。これらは決してセンセーショナルに描かれることはありませんが、観る側の心情によっては重く感じられる可能性があります。
視聴にあたっては、映像的な恐怖表現よりも“精神的にじわじわ効いてくる怖さ”を味わう覚悟が必要です。血や悲鳴といった即物的な刺激ではなく、“存在しない何か”に包囲されていくような感覚が持続するため、鑑賞後にも強い余韻を残す作品といえるでしょう。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
『イット(It)』には、原作小説をはじめとする複数の関連作品が存在します。観る順番や媒体ごとの違いを知っておくことで、より深く物語を楽しむことができます。
■ 原作小説『IT』(スティーブン・キング/1986年)
本作の出発点は、ホラー小説の巨匠スティーブン・キングによる1200ページ超の長編小説。映画版では描ききれなかった内面描写や時系列の行き来など、より複雑で深みのある構成となっています。原作では子ども時代と大人時代が交互に語られるのが特徴です。
■ 映画『It/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017年)
本記事で扱っている作品であり、原作小説の前半=“子ども時代”にフォーカスしたストーリー構成となっています。物語の起点やペニーワイズとの初遭遇を描く、シリーズの導入として最適な作品です。
■ 映画『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(2019年)
続編にあたる本作では、27年後の“Losers Club”が大人になって再集結し、再びペニーワイズと対決します。時系列としては映画の第2部にあたるため、2017年版を先に観てからの鑑賞が推奨されます。恐怖の再来と、それに打ち勝つ過程が描かれるクライマックスです。
■ テレビミニシリーズ『It』(1990年/全2話)
ティム・カリーがペニーワイズを演じた初の映像化作品。テレビ映画という制限はあるものの、原作に忠実な構成と強烈なビジュアルで、現在でもカルト的な人気を誇ります。現行映画版との比較で楽しむのもおすすめです。
■ メディア展開
2020年代に入り、ドキュメンタリー『Pennywise: The Story of IT』や、グラフィックノベル版、ファンメイドの短編映像など、さまざまな形で『It』の世界が再解釈されています。ホラー文化の一部として定着していることがうかがえます。
なお、続編ドラマ『Welcome to Derry』などの情報は、次の見出し「続編情報」にて詳しく紹介します。
類似作品やジャンルの比較
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』が描く“形のない恐怖”“子どもたちの絆”といった要素は、他の名作ホラー作品にも共通しています。以下にいくつかの類似作品を紹介し、ジャンルやテーマとの比較を交えながら解説します。
■ 『THE MONKEY/ザ・モンキー』(2025年公開予定)
同じくスティーブン・キング原作の短編ホラーを映像化。猿のぬいぐるみを発端に次々と起こる異常現象が描かれ、“日常に潜む恐怖”という点で『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』と共鳴します。製作は『死霊館』のジェームズ・ワン。
■ 『ロングレッグス』(LONGLEGS/2025)
ニコラス・ケイジ演じるシリアルキラーと新人FBI捜査官の対決を描いたサイコスリラー。直接的なホラーではないものの、異形への恐怖と心理的な圧迫感は『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』と同じ緊張感を持ちます。
■ 『アンティルドーン』実写版(2025年予定)
ホラーゲームを原作とする本作は、若者グループが山荘でサバイバルする展開。『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のように若者たちが謎の存在と向き合う群像劇としての構造が似ており、恐怖と選択の物語が重なります。
■ 『ミッドサマー』(2019)
文化的異質性とグロテスクな美学を融合させた北欧ホラー。静寂の中でじわじわ恐怖が迫る構成は、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の“見えないものへの恐怖”と通じるものがありますが、舞台設定や表現はまったく異なる方向性です。
■ 『スタンド・バイ・ミー』(1986)
ジャンルは異なるものの、少年たちの友情や成長、死へのまなざしを描いた物語として、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』との親和性は非常に高いです。“恐怖”の代わりに“喪失”が中心にある点が違いでありながらも、感情の軸は共通しています。
いずれの作品も、ホラーという枠にとどまらず、人間の心理や関係性を深く掘り下げる点で共通性があります。『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』に惹かれた方には、これらの作品もおすすめです。
続編情報
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の映画本編には、直接的な続編である『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(2019年)が存在しますが、2025年には新たに前日譚ドラマシリーズが配信予定となっています。
■ 続編の有無
映画本編に続く第3作の正式な発表は現在のところありませんが、前日譚にあたるスピンオフ作品の制作が進行中です。
■ タイトルと公開時期
タイトルは『Welcome to Derry(ウェルカム・トゥ・デリー)』。HBOおよびMaxにて2025年後半に配信予定と発表されています。
■ 制作体制
映画版と同じくアンディ・ムスキエティ監督が企画・制作に関与しており、姉のバルバラ・ムスキエティとともに製作総指揮を担当。脚本・ショーランナーはジェイソン・フュークスが務め、ペニーワイズ役として再びビル・スカルスガルドが登場予定です。
■ 作品形態とストーリー構成
『Welcome to Derry』は、映画『It』シリーズの前日譚として、1960年代のメイン州デリーを舞台に、町で起こる不穏な事件や“ブラック・スポット”と呼ばれる火災事件の背景などが描かれる予定です。ペニーワイズの起源や、“恐怖が循環する町”という構造の深掘りがなされる模様です。
映画本編の完結後にもなお、“それ”の物語は拡張され続けています。『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の世界観をより深く知るうえで注目すべき作品といえるでしょう。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は、単なる恐怖体験を提供するホラー映画ではなく、“恐怖とは何か”を多角的に問いかける作品です。登場するペニーワイズは、物理的な怪物でありながら、実際には子どもたちが心に抱える恐れや傷を象徴する存在。だからこそ、観客が感じる恐怖は単なる驚きではなく、どこか心に引っかかる“内面的な共鳴”として残ります。
本作では、“それ”に立ち向かう子どもたちが、単に怪物と戦っているのではなく、「目を背けたい現実」や「押し殺してきた感情」と向き合う旅でもあります。失った家族への想い、自分の弱さ、他者との距離感――そうした日常の中にある複雑な感情こそが、物語の芯を支えています。
視聴後に残るのは、「本当の恐怖は、“それ”ではなく、私たちの中にあるのではないか?」という静かな問いかけです。ペニーワイズは形を変えて、いつの時代にも現れる――それは人間の恐怖が決して一つの形では説明できないほど深く、根源的であることのメタファーとも言えるでしょう。
さらに、物語の舞台である1980年代の田舎町という閉鎖的な空間は、社会からこぼれ落ちた問題が積もり続ける現実を映し出しています。無関心、暴力、格差――“それ”が出現する土壌は、決してフィクションの中だけではないことを本作は暗に示しています。
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』を観終えたとき、私たちは「怖かった」だけで終わることはできません。そこには、恐怖をどう受け入れ、どう共に生きていくかという命題が静かに置かれているのです。あなたにとっての“それ”とは、一体何なのか――その余韻が、きっと心に残り続けるはずです。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
OPEN
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』における“それ=ペニーワイズ”は単なる怪物ではなく、恐怖そのものが意識化された存在として描かれています。注目すべきは、“それ”が子どもたちの個人的なトラウマや弱さを的確に突いてくるという点です。
ビルにとっての“それ”は弟ジョージーの死のトラウマであり、ベバリーにとっては父親との歪んだ関係、エディには病気と母親の支配――“それ”は常に最も痛みを感じる場所に現れます。これは、恐怖というものが“自分の中にあるもの”であるということの象徴であり、ペニーワイズの正体は「心の投影」であるという解釈も可能です。
また、物語の舞台であるデリーという町自体が、恐怖や暴力を循環させる閉鎖的な空間として機能しています。映画では深く語られませんが、原作や続編ではデリーが過去にも多くの悲劇を生んできた“特異な場所”として描かれています。このことから、ペニーワイズだけでなく町そのものが“それ”の器であるという考察も成り立ちます。
さらに興味深いのは、子どもたちが一度“それ”に勝ったと思っても、大人になって再び恐怖に直面すると記憶が曖昧になっている点です。これは、大人になる過程で恐怖を忘れる(あるいは抑圧する)ことの危うさを示しており、物語全体が“恐怖とどう向き合うか”という心理的テーマに貫かれていると言えるでしょう。
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』という作品は、視覚的な恐怖だけでなく、観る者の内面に静かに問いを投げかける構造を持っています。恐怖とは何か、なぜ人はそれに飲まれ、同時に克服しようとするのか――この物語が提示するテーマは、ただのホラーでは終わらない余韻を私たちに残します。
ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)
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