『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』とは?|どんな映画?
『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』は、名探偵ベノワ・ブランが新たな謎に挑む、シリーズ第2弾となるミステリー映画です。
舞台はギリシャの孤島。億万長者の主催するミステリーパーティに招かれた面々が、やがて本物の殺人事件に巻き込まれていくという設定で、上質なサスペンスとユーモアが交錯する作品に仕上がっています。
前作『Knives Out』で評価された巧妙なプロットと皮肉めいた会話劇は本作でも健在。加えて、華やかなロケーションと風刺的なキャラクター描写がより強調されており、ミステリーでありながらエンターテインメント性も高い点が特徴です。
一言で言うと、「現代的な感性でアップデートされた“アガサ・クリスティ風”極上ミステリー」といえるでしょう。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | Glass Onion: A Knives Out Mystery |
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タイトル(邦題) | ナイブズ・アウト: グラス・オニオン |
公開年 | 2022年 |
国 | アメリカ |
監 督 | ライアン・ジョンソン |
脚 本 | ライアン・ジョンソン |
出 演 | ダニエル・クレイグ、エドワード・ノートン、ジャネール・モネイ、キャスリン・ハーン、レスリー・オドム・Jr.、ケイト・ハドソン、デイヴ・バウティスタ ほか |
制作会社 | Netflix、T-Street、ライオンズゲート(前作配給)、TCG Studio |
受賞歴 | 第95回アカデミー賞 脚色賞ノミネート、ゴールデングローブ賞作品賞・主演男優賞ノミネート ほか |
あらすじ(ネタバレなし)
舞台は、エーゲ海に浮かぶ華やかな私有の孤島。テクノロジー界の億万長者マイルズ・ブロンが、親しい友人たちを招いてミステリーパーティを開催する──それは一見、ただの豪勢な娯楽に見えた。
しかし、その場にひときわ異彩を放つ男がひとり。名探偵ベノワ・ブランである。なぜ彼が招かれたのか? そしてこの“ゲーム”に隠された真の目的とは?
絢爛な邸宅と癖の強い登場人物たち。パズルのように組み上げられた舞台で、やがて虚構と現実が交錯し始める。
あなたはこの招待の「意図」に気づけるだろうか――?
予告編で感じる世界観
※以下はYouTubeによる予告編です。
独自評価・分析
ストーリー
(3.5点)
映像/音楽
(4.0点)
キャラクター/演技
(4.0点)
メッセージ性
(3.0点)
構成/テンポ
(3.5点)
総合評価
(3.6点)
物語の舞台や状況設定はユニークでありながらも、ミステリーとしての驚きは前作ほどの緻密さには及ばず、ストーリー面ではやや評価が伸び悩みました。一方で、絢爛なロケーションと美術、そして音楽のリズム感は非常に完成度が高く、視覚・聴覚的な満足度は高い作品です。
ダニエル・クレイグを中心とした演者たちの個性あふれるキャラクター造形も見応えがあり、作品全体をユーモラスかつ軽快に彩っています。ただし、物語の奥深さや社会的メッセージ性は薄く、娯楽性に重きを置いた印象です。
テンポはおおむね良好でテンションを維持しますが、終盤にかけてやや間延びする点も否めず、構成面では惜しい部分も見られました。
3つの魅力ポイント
- 1 – 舞台設定の大胆さと美術的魅力
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ギリシャの孤島という非日常的な舞台は、視覚的に華やかで観客を一気に作品世界へ引き込む要素となっています。豪邸のインテリアや色彩設計など、美術面でのこだわりが細部にまで詰まっており、ミステリーの舞台としての“異空間感”が魅力的です。
- 2 – キャラクターたちの癖と群像劇の妙
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登場人物はいずれも強烈な個性を持ち、誰もが一癖も二癖もある存在として描かれます。その群像劇の中にあって、探偵ベノワ・ブランの存在が絶妙な軸となっており、登場人物たちの“虚と実”がスリリングに交錯していく構成は見応え十分です。
- 3 – 現代社会への風刺とユーモア
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IT業界やセレブ文化、SNSの虚像など、現代社会への皮肉や風刺が巧みに織り込まれており、ただの殺人ミステリーにとどまらない深みを生んでいます。コミカルなやり取りの中に現代性を感じられる点も、本作のユニークな魅力です。
主な登場人物と演者の魅力
- ベノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)
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シリーズの主人公である名探偵。南部訛りの優雅な口調と、冷静かつ鋭い推理力で事件の核心に迫ります。前作に引き続きダニエル・クレイグが演じており、007とは全く異なるコミカルかつ知的な役どころを軽妙に演じ分け、強烈な存在感を放っています。
- マイルズ・ブロン(エドワード・ノートン)
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本作の舞台となる島の主であり、巨大IT企業の創業者。カリスマ的だがどこか胡散臭さも漂う人物として描かれます。エドワード・ノートンの知的かつエゴイスティックな演技が、キャラクターの“危うさ”を引き立てています。
- ヘレン/キャシディ(ジャネール・モネイ)
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一見控えめな女性として登場するが、物語の中盤以降で大きな役割を担う人物。ジャネール・モネイは複雑な二重役を鮮やかに演じ分け、感情の幅とミステリアスな雰囲気で観客を引き込むパフォーマンスを見せています。
- バーディ・ジェイ(ケイト・ハドソン)
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元スーパーモデルでセレブ気取りのファッションインフルエンサー。無自覚な失言でトラブルを巻き起こす“愛すべきバカ”として、ケイト・ハドソンが絶妙なバランスで演じています。観る者に笑いと皮肉を同時に与えるキャラクターです。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
本格的な謎解きやサスペンス要素を重視する人
派手な展開やアクションを期待している人
シリーズ1作目のような密室型ミステリーを求めている人
登場人物の会話劇にあまり興味が持てない人
皮肉や風刺の多い作品が苦手な人
社会的なテーマや背景との関係
『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』は、一見すると軽妙なミステリー映画に見えますが、背景には現代社会への鋭い風刺が織り込まれています。特に、本作に登場する億万長者マイルズ・ブロンは、実在のテクノロジー業界のカリスマを思わせる人物像であり、その言動や振る舞いは“裸の王様”のようでもあります。
また、本作のキャラクターたちは皆それぞれに“現代的な矛盾”を体現しています。インフルエンサーとして注目を浴びるが発言は空虚なモデル、社会派を装いながらも自己利益に敏感な政治家など、表面的な成功や承認欲求に取り憑かれた現代人の姿が浮き彫りになります。そうした描写は、SNS時代の「自己演出」や「バズ重視」の価値観に対する冷ややかなまなざしを感じさせます。
さらに、本作の舞台が“孤島”という閉鎖空間であることにも意味があります。そこでは経済格差や社会的地位といった要素が色濃く反映され、限られた空間の中で支配される構造そのものが、格差社会の縮図として機能しているのです。
そして物語が進行する中で、登場人物たちが「自分は正しい」「他者は間違っている」と信じて疑わない様子は、分断の激しい現代社会における“対話の欠如”を象徴しているかのようです。観客は、その歪さに気づいたとき、単なる推理劇を超えた「社会への問いかけ」を受け取ることになるでしょう。
映像表現・刺激的なシーンの影響
『Gナイブズ・アウト: グラス・オニオン』は、そのタイトルが示すように、ガラスの層を一枚一枚剥がしていくような視覚的演出が印象的な作品です。ギリシャの美しい孤島を舞台に、ラグジュアリーな邸宅や眩い太陽光のもとで繰り広げられる物語は、光と影のコントラストが強く意識された映像美に満ちています。
建築デザインやインテリアのディテールはもちろん、キャラクターたちの衣装や色彩の配置も非常に計算されており、画面のすみずみにまで美術的なこだわりが感じられます。特に、クライマックスにかけてのライティング演出やカメラワークは、観客の緊張感を高めながらも視覚的快感を伴って展開していきます。
一方で、本作には流血や暴力的な描写が一部含まれています。とはいえ、それらはスプラッター的な過激表現ではなく、物語の文脈に沿った“軽度な刺激”の範囲に収まっています。そのため、過度にショッキングな演出が苦手な方でも比較的安心して視聴できるでしょう。
音響面では、ミステリー特有の不穏な空気を巧みに醸成するスコアが効果的に使われており、静寂と緊張、ユーモアのバランスが音でも支えられています。また、キャラクター同士の会話のテンポや間合いも、視覚と聴覚が連動した演出として非常に秀逸です。
総じて、本作は映像美と演出面での完成度が高く、視覚的にも聴覚的にも楽しめる一本に仕上がっています。とはいえ、物語が進むにつれて登場人物の行動や心理に“倫理的なズレ”が生じる場面もあるため、その点に敏感な方は内容のトーンにご注意いただくとよいかもしれません。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』は、ライアン・ジョンソン監督による『ナイブズ・アウト』シリーズの第2作にあたります。シリーズとしては同じ探偵ベノワ・ブランが登場しますが、物語自体は完全に独立した構成となっており、前作を観ていなくても充分に楽しめる内容です。
第1作『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019年公開)は、名家の遺産を巡る家族内の殺人事件を描いた“屋敷ミステリー”で、本格推理とブラックユーモアが融合した構成が高く評価されました。本作『Glass Onion』は、設定こそ異なれど、同様に皮肉と謎解きのバランスが絶妙なスタイルを継承しています。
なお、本シリーズは小説や既存の原作を持たない完全オリジナル脚本の映画であり、スピンオフやドラマ展開などのメディアミックスは現時点では存在していません。そのため、シリーズ作品としては映画のみを順番に観ていくことで十分に世界観を追うことが可能です。
時系列的には『Knives Out』→『Glass Onion』の順となりますが、ベノワ・ブランのキャラクターや推理スタイルの魅力を知るうえではどちらから観ても楽しめる構成です。シリーズ特有のユーモアや風刺が気に入った方は、ぜひ前作にも手を伸ばしてみることをおすすめします。
類似作品やジャンルの比較
『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』が属するのは、現代風にアレンジされた“会話劇中心のミステリードラマ”です。このジャンルには、推理の妙だけでなく、個性的なキャラクター同士の駆け引きや皮肉に満ちたユーモアが重要な魅力となっています。
同様の空気感を持つ作品としてまず挙げられるのが、シリーズ第1作である『Knives Out(ナイブズ・アウト)』です。屋敷ミステリーの王道を踏まえつつ、現代社会の階級や人間関係に鋭く切り込んだ点は本作と共通しており、ファンなら見逃せません。
また、アガサ・クリスティ原作を基にした映画『オリエント急行殺人事件』や『ナイル殺人事件』などもおすすめです。こちらは密室的な空間での犯人探しが中心で、クラシックな本格推理が魅力。『Glass Onion』のような現代的アプローチとは異なるものの、“容疑者たちの心理戦”を楽しむ構造は共通しています。
ユーモアやアイロニーが強い作品としては、ロバート・アルトマン監督の『ゴスフォード・パーク』や、複数のエンディングを持つコミカルな密室劇『Clue(クルー)』も近いテイストです。特に後者は“推理×笑い”という点で『Glass Onion』に通じる魅力を持っています。
さらに、ライアン・ジョンソン自身がインスピレーション元と語る『The Last of Sheila』も、豪華な舞台と複雑な人間模様が絡む傑作として知られています。船上で展開されるミステリーパーティという構図は、『Glass Onion』の構造と驚くほど重なり合います。
このように、“知的なエンタメミステリー”が好きな人には広がりのあるジャンルです。視点や演出、時代背景の違いを楽しみながら、自分好みのミステリー作品を見つけてみてはいかがでしょうか。
続編情報
『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』には、すでに続編の制作が進行しており、シリーズ第3作として『Wake Up Dead Man: A Knives Out Mystery』の制作が公式に発表されています。
公開時期は2025年12月12日を予定しており、Netflixでの配信が決定しています。また、トロント国際映画祭でのワールドプレミア(2025年9月)およびロンドン映画祭での上映(2025年10月)も発表されており、映画ファンの注目を集めています。
監督は引き続きライアン・ジョンソンが務め、脚本も同氏によるオリジナルです。主演には再びダニエル・クレイグが登場し、新たなベノワ・ブランの活躍が描かれる予定です。さらに、ジョシュ・オコナー、グレン・クローズ、ジョシュ・ブローリン、ミラ・クニス、アンドリュー・スコットら豪華キャストの参加が明かされており、作品のスケールアップが期待されています。
今作も前2作と同様に“独立した事件を描くスタイル”が踏襲されると見られており、プリクエルやスピンオフといった派生作品ではなく、ベノワ・ブランを主軸とした“探偵シリーズ”の続編として位置づけられています。したがって、今後も1本ごとに違う舞台や事件が描かれる形式が続く見込みです。
さらにライアン・ジョンソン監督は、このシリーズを今後も継続していく意欲を表明しており、Netflixとの大型契約により「4作目以降」も構想されている可能性があります。詳細はまだ不明ですが、今後の発表にも期待が高まります。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』は、単なる“誰が犯人か”を解き明かすミステリーではありません。むしろ、その過程において暴かれていくのは、人間の虚栄心や欺瞞、そして現代社会に蔓延する「空虚な成功」の正体です。キャラクターたちが自らの立場や利益にしがみつく姿は、我々の現実世界にある構図とどこか重なって見えるでしょう。
探偵ベノワ・ブランは、その優雅な語り口と理知的な振る舞いによって、事件だけでなく社会構造までも浮き彫りにしていきます。ミステリーの形式を借りながらも、本作が内包するメッセージは極めて現代的であり、「誰が嘘をついているのか」だけでなく「なぜ人は嘘をつくのか」という本質的な問いへと観客を導いていきます。
また、舞台となる孤島やガラスの屋敷という設定は、象徴的な意味をもって観客に作用します。“透明であるはずのもの”にこそ欺きが潜む──その皮肉は、視覚的にも物語的にも巧みに表現されており、視聴後にも余韻として残り続ける仕掛けです。
本作は前作の成功を受けた続編でありながら、同じフォーマットに安住することなく、大胆な構成転換とジャンル的冒険を試みています。だからこそ賛否が分かれる部分もあるかもしれませんが、その挑戦的な姿勢こそがシリーズの魅力とも言えるでしょう。
最後に、本作が投げかける問いはこうです。「真実とは、誰が語るかで変わるのか?」。そして観客は、その答えを自分なりに考えることになるのです。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
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本作の最大の仕掛けは、キャシディとヘレンの双子設定です。観客は物語の前半で“キャシディ”として登場する女性が実は既に死亡しており、妹のヘレンが入れ替わっていたという展開に驚かされます。この入れ替わりによって、物語の視点が一気に転換され、既に観たはずのシーンが再解釈される構造は非常にメタ的であり、「真実とは何か」というテーマを象徴するギミックとして機能しています。
また、探偵ベノワ・ブランの“犯人当てゲーム”を即座に看破する場面は、観客に「この物語は単なるトリック競争ではない」とあらかじめ示唆しており、その後に続く人間ドラマや社会風刺へのフォーカスを強調する意図があると考えられます。つまり本作は、“謎を解く”というよりも“なぜ人は嘘をつくのか”を暴く物語なのです。
加えて、「ガラスの玉ねぎ(Glass Onion)」というタイトル自体が象徴的です。玉ねぎのように層を剥がしても、その中心には何もない——これはマイルズ・ブロンという人物そのもの、あるいは現代の“カリスマ”像への風刺とも読めます。彼が作り出したテクノロジー、権威、交友関係は、いずれも脆弱で空虚なものであり、その“空っぽさ”が真相として暴かれていくのです。
さらに、クライマックスでの“燃やす”という行為は、文字通りの破壊であると同時に、偽りや虚構に支配された世界を終わらせる象徴的な行為ともとれます。観客にとっては、カタルシスであると同時に、「果たしてそれで本当に終わったのか?」という新たな問いも残す結末です。
このように本作は、構造上のトリックやサプライズ以上に、「信頼」「虚栄」「暴露」など、現代における人間関係の危うさを描き出した作品といえるでしょう。すべてを見通せる探偵でさえ、“真実の深さ”までは触れきれない——そうした“限界”の示唆もまた、本作が投げかける重要なテーマのひとつです。
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