『ドクター・ドリトル』とは?|どんな映画?
『ドクター・ドリトル』は、動物と話せるという不思議な能力を持つ医師が、個性豊かな動物たちとともに大冒険を繰り広げるファンタジー映画です。
2020年に公開された本作は、児童文学「ドリトル先生」シリーズを原作に、ロバート・ダウニー・Jr.が主演を務める実写作品として制作されました。舞台は19世紀のイギリス。ある使命を果たすため、主人公が海を越え、未知の世界へ旅立つというクラシックな冒険譚の要素を持ちながらも、動物との交流やユーモアを交えた“癒し系アドベンチャー”として親しまれています。
ひと言で言えば、「心を閉ざした天才医師が、動物たちとの絆を通して再生していく、冒険と感動のファンタジー映画」です。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | Dolittle |
---|---|
タイトル(邦題) | ドクター・ドリトル |
公開年 | 2020年 |
国 | アメリカ |
監 督 | スティーヴン・ギャガン |
脚 本 | スティーヴン・ギャガン、ダン・グレゴール、ダグ・マンド |
出 演 | ロバート・ダウニー・Jr.、アントニオ・バンデラス、マイケル・シーン、エマ・トンプソン(声)、レミ・マレック(声)、ラミ・マレック(声)、トム・ホランド(声)ほか |
制作会社 | ユニバーサル・ピクチャーズ、チーム・ダウニー |
受賞歴 | 第41回ゴールデンラズベリー賞:最低前日譚・リメイク・続編賞 受賞 |
あらすじ(ネタバレなし)
かつて動物と会話できる名医として名を馳せたドリトル先生。しかし、最愛の妻を失って以来、彼は屋敷に引きこもり、人との関わりを断って生きていました。
そんなある日、イギリス王室からの依頼が舞い込んできます。重い病に伏せる若き女王を救えるのは、ドリトルの“特別な力”だけ──。
渋々ながらも旅に出る決意をしたドリトルと、彼を慕う動物たち。不思議な仲間たちと共に、海を越え、伝説の地を目指す冒険が始まります。
果たして彼らは、秘薬を見つけ出し女王を救うことができるのか? そして、心を閉ざしたドリトル自身の変化とは…?
予告編で感じる世界観
※以下はYouTubeによる予告編です。
独自評価・分析
ストーリー
(2.5点)
映像/音楽
(3.5点)
キャラクター/演技
(3.0点)
メッセージ性
(2.5点)
構成/テンポ
(2.0点)
総合評価
(2.7点)
映像や動物のCG表現は高品質で、ファミリー層にも分かりやすく親しみやすい作風にはなっているものの、物語の展開はやや雑で、テンポや感情の起伏が平坦。キャラクターの魅力も表層的で、特にドリトル本人の内面描写が弱い印象を受けました。メッセージ性やドラマ性も薄く、どの年齢層に向けた作品かが曖昧に感じられる点も評価を下げた要因です。
3つの魅力ポイント
- 1 – 動物たちの個性豊かなキャラクター
-
本作の魅力の一つは、なんといっても多彩な動物キャラクターたちの存在です。シロクマやダチョウ、ゴリラ、犬など、見た目も性格も異なる彼らがドリトル先生と軽快なやり取りを繰り広げ、ファンタジーの世界観をユーモラスに彩ります。
- 2 – 圧巻のCG映像と美術デザイン
-
動物たちの表情や動き、さらには舞台となる幻想的な島や船旅のシーンまで、映像美においては高いクオリティを誇ります。実写とCGを違和感なく融合させた映像は、視覚的な楽しさを提供し、冒険の臨場感を高めています。
- 3 – 主人公の再生物語としての側面
-
一見すると動物との冒険劇に見える本作ですが、実は「心を閉ざした主人公が再び世界と向き合うまでの心の旅」という再生の物語でもあります。ドリトル先生が動物や人間との関係を通じて変化していく姿に、ささやかながら感動的な余韻が残ります。
主な登場人物と演者の魅力
- ドクター・ジョン・ドリトル(ロバート・ダウニー・Jr.)
-
本作の主人公であるドリトル先生は、動物と話すことができる孤高の医師。ロバート・ダウニー・Jr.は、MCUのアイアンマンとは対照的に、風変わりで繊細なドリトル像を独自に表現しています。セリフのトーンや表情の緩急によって、変わり者でありながら内面に葛藤を抱える人物像に深みを与えています。
- チーチー(声:ラミ・マレック)
-
臆病なゴリラでありながら、ドリトルとの旅を通して少しずつ自信をつけていく姿が印象的。アカデミー賞俳優ラミ・マレックの繊細な声の演技が、チーチーの内向的で優しい性格を的確に表現しており、観客の共感を呼びます。
- ポリネシア(声:エマ・トンプソン)
-
ドリトルに最も近しい存在であり、知的で頼りになるオウム。エマ・トンプソンの落ち着いた声がキャラクターの賢さや包容力を際立たせており、作品全体の“語り部”としても重要な役割を果たしています。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
緻密なストーリー展開や深い人間ドラマを求める人には物足りなく感じられるかもしれません。
テンポの良さや盛り上がりを重視する人には、やや単調な構成に映る可能性があります。
ロバート・ダウニー・Jr.の新たな代表作を期待して観ると、肩透かしに感じることもあるかもしれません。
動物映画=感動作という先入観が強い人には、コミカルで軽い雰囲気が合わない場合があります。
社会的なテーマや背景との関係
『ドクター・ドリトル』は一見するとファンタジックな冒険物語ですが、その裏にはいくつかの社会的・人間的なテーマが垣間見えます。最も顕著なのは、「孤立」と「再生」という人間の根源的なテーマです。
主人公ドリトルは、最愛の妻を亡くしたことで心を閉ざし、社会との関わりを絶って生きています。これは、現代社会において人とのつながりを見失いがちな私たちに重なる部分があります。人との接触を避け、自らの殻に閉じこもる姿は、SNS時代における孤独や、喪失体験を抱える人々の心情を象徴しているかのようです。
また、彼が再び世界と向き合うきっかけとなるのが「動物たちとの関係性」である点も注目に値します。ドリトルにとって、動物は単なる話し相手ではなく、自分自身を映す鏡のような存在です。異なる存在と真に心を通わせることの難しさ、そしてその価値を、動物という“他者”を通じて描いているのです。
さらに、作中で描かれる「自然界の秩序」や「動物の尊厳」などは、今日の環境問題へのささやかなメッセージとも読み取ることができます。動物と人間が対等にコミュニケーションを取る世界は、現実には存在しない理想郷ですが、そこに込められた「共生」の願いは、私たちが地球上の生き物とどう関わるべきかを問いかけてきます。
本作は、決して社会派映画ではありませんが、ファンタジーというフィルターを通して、現代人が見失いがちな“心の豊かさ”や“他者とのつながり”の大切さを描いた作品だと言えるでしょう。
映像表現・刺激的なシーンの影響
『ドクター・ドリトル』は、映像表現においてきわめて高いレベルのCG技術を駆使しており、実写とCG動物との違和感のない融合が最大の特徴のひとつです。動物たちの細かな毛並み、目の動き、表情の変化までリアルに描かれており、それらがキャラクター性の演出に大きく寄与しています。
特に冒険の舞台となる南国の島や船上での旅の描写などは、絵本の世界のように色鮮やかで幻想的です。子どもでも安心して観られる明るくポップな色調が多く採用されており、ダークな空気感や陰鬱さはほとんど感じられません。
音響面では、動物の鳴き声やコミカルな効果音、軽快なBGMなどが作品のテンポを盛り上げています。特にアクションシーンにおいては、ややオーバーな演出が多いものの、それが作品のユーモラスな雰囲気と調和しており、不快感を与えることはありません。
一方で、注意点としては、一部のシーンにおいて「動物同士の激しい行動」や「空想的な生き物との対峙」などが描かれるため、小さな子どもにとってはやや驚きのある演出に感じる可能性があります。血や暴力といった直接的な刺激は控えめですが、「動物が捕らえられる」「危険な状況に置かれる」といった展開も含まれるため、感受性の高いお子様が観る際は、保護者の方が一緒に視聴するのが望ましいでしょう。
全体としては、ファミリー層を意識した安心感のある作風でありながらも、映像と演出の完成度の高さから、映画としての質感もしっかりと担保されている作品です。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
『ドクター・ドリトル』は、20世紀前半に活躍したイギリスの作家ヒュー・ロフティングによる児童文学『ドリトル先生』シリーズを原作とした作品です。原作小説は全12巻にもおよび、動物と会話できる博識な医師の冒険を描いた、100年近い歴史を持つ名作シリーズとして知られています。
これまでに映像化は複数回行われており、特に有名なのが1967年のミュージカル映画『ドリトル先生不思議な旅』と、エディ・マーフィ主演の1998年版『ドクター・ドリトル』です。どちらも物語の構成やキャラクター解釈は大きく異なっており、「ドリトル=動物と話す変わり者の医師」という基本設定のみを共有した、まったく別のアプローチが取られている点が特徴的です。
なお、2020年版の本作はヒュー・ロフティング原作のエッセンスを残しつつも、完全なオリジナル脚本として再構築されており、シリーズや過去作を知らなくても単独で十分に楽しめる構成となっています。そのため観る順番に特別な決まりはなく、本作から入ることに全く問題はありません。
また、1998年版は現代アメリカを舞台とし、よりコメディ要素が強く、続編も複数制作されています。一方で本作は19世紀のイギリスを背景としたクラシカルなファンタジー色が強いため、同じ「ドリトル」でも世界観や雰囲気は大きく異なる点に注意が必要です。
類似作品やジャンルの比較
『ドクター・ドリトル』のように動物たちがメインキャラクターとして登場し、人間と交流するタイプの映画は他にもいくつか存在します。特に『ズートピア』や『パディントン』は、ユーモアと感動を融合させた動物ファンタジーの代表格として挙げられるでしょう。
『ズートピア』は擬人化された動物たちが暮らす社会を舞台にしながらも、差別や偏見といった社会的テーマを盛り込んだ骨太な物語が展開されます。一方で、『ドクター・ドリトル』はあくまで動物と人間の関係性にフォーカスしており、テーマ性よりも冒険と癒しに軸足を置いています。
また、『ジャングル・ブック』や『ライオン・キング』といったディズニー作品にも通じるものがあり、「自然の中で動物たちと心を通わせる」という点では近しい世界観があります。ただし、これらはよりドラマチックかつ感情に訴えかける構成になっており、物語の深みという点では一歩リードしています。
コメディ路線が強い『ガーフィールド』や、エディ・マーフィ版の『ドクター・ドリトル』シリーズも、同様に「動物×笑い」という文脈で楽しめる作品です。とくに後者は現代アメリカを舞台にしており、2020年版と比較するとテイストの違いが際立ちます。
「ファンタジー性のある動物映画が好き」「笑えて癒される作品が観たい」という人には、本作とあわせてこれらの作品をチェックしてみるのもおすすめです。
続編情報
2020年に公開された『ドクター・ドリトル』について、現時点で続編に関する公式な制作発表や公開予定は確認されていません。複数の海外メディアも「興行成績や評価を踏まえると、続編の可能性は極めて低い」と報じています。
本作は制作費が高額(1.8〜2億ドル超)でありながら、世界興行収入が2.5億ドル前後にとどまったこと、また批評面でも厳しい意見が多く、商業的成功を収めたとは言い難い結果となっています。
そのため、シリーズ化を前提とした企画であった可能性はあったとしても、現時点では続編企画が凍結・中止された状態であると推測されます。
なお、過去には1998年に公開されたエディ・マーフィ主演版『ドクター・ドリトル』が複数の続編(『ドクター・ドリトル2』『ドクター・ドリトル3』など)を生んでおり、「ドリトル先生」シリーズそのものは映画フランチャイズとしての歴史が長く、スピンオフやリブートの余地があるIPであることは間違いありません。
今後の展開についても注視は必要ですが、本作に直接続く“ドクター・ドリトル2”のような続編作品は、少なくとも現段階では存在していません。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『ドクター・ドリトル』は、壮大なファンタジーアドベンチャーとしての側面を持ちながら、観る者にさまざまな問いや感情を残してくれる作品です。ドリトル先生という“動物と話せる医師”を通じて描かれるのは、他者とどう向き合い、心を通わせるのかという、人間関係において普遍的なテーマです。
愛する者を失い、心を閉ざした男が再び世界と関わる勇気を持ち、仲間の力を借りながら立ち上がっていく姿は、決して非現実的な物語ではなく、私たち一人ひとりにも通じるものがあります。特に、他人ではなく“動物”を通じてしか心を開けなかったという設定は、現代の孤独やコミュニケーションの不自由さを比喩的に描いているようにも感じられます。
また、映像としての美しさ、動物たちの個性、そしてユーモアのセンスは、難しいことを考えずとも楽しめる娯楽性をしっかり担保しています。その一方で、メッセージ性や物語の深みに関しては物足りなさを覚える観客もいるかもしれません。しかしそれこそが本作のスタンスであり、「深く考えすぎず、まずは笑って癒されて」という優しい余韻を残してくれるのです。
他者との関係が複雑になりがちな現代社会において、誰かと“心でつながる”ことの意味を再確認させてくれる──そんな穏やかな問いを、ドリトル先生と動物たちは物語の奥底でそっと差し出してくれているのかもしれません。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
OPEN
本作の最大のテーマは「喪失と再生」です。ドリトルが冒険へと踏み出す動機は、女王の命を救うという任務ですが、その本質は自身の閉ざされた心を開き、再び世界と向き合うための心の旅であるとも読み取れます。
動物たちとの旅のなかで彼が直面する困難は、現実世界でいうところの“トラウマとの対峙”や“社会復帰”の象徴とも言えるでしょう。特に、動物たちがそれぞれ独自のコンプレックスや恐怖を抱えている点も、ドリトルの心の分身として機能しているように見えます。
また、クライマックスに登場する“伝説の果実”を得るプロセスには、古典的な英雄譚の構造が取り入れられており、「自分を乗り越えることで初めて他者を救える」という寓話的な教訓が込められているとも考えられます。
一方で、物語の展開や演出がやや唐突で、深く掘り下げられない点があるのも事実です。これはあえて“寓話的”なシンプルさを狙ったものか、それとも制作上の都合による簡略化なのかは断言できませんが、観る者によっては“解釈の余地”として楽しめる部分かもしれません。
全体を通して、本作は「他者との関係を再構築すること」「変化を受け入れること」の大切さを、動物たちとの絆を通じて示している作品と言えるでしょう。結末の描き方も“完全な解決”ではなく、“これからまた歩き出す”という含みのある終わり方で、静かな余韻を残します。
ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)
OPEN




















