映画『はじまりのうた』(2013)のレビュー|音楽と再生のヒューマンドラマ

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目次

『はじまりのうた』とは?|どんな映画?

はじまりのうた』は、音楽を通じて人生を立て直していく人々の再生と希望を描いた、ヒューマンドラマ×音楽映画です。

主人公は、恋人と別れたシンガーソングライターのグレタと、業界から落ちぶれた音楽プロデューサーのダン。2人がニューヨークの街を舞台に、出会い、音楽によって心を取り戻していく姿が、爽やかで心温まるトーンで描かれます。

ジャンルとしては、ヒューマンドラマ音楽映画に分類され、同時に都会の喧騒の中で静かに響く音楽と感情が印象的な“癒し系のシティ・ミュージックムービー”とも言えるでしょう。

軽快な楽曲、アーティスティックな街角ロケーション、そして抑制された感情表現が織りなす本作は、「何かを失った人が、もう一度前を向くためのエネルギーをくれる映画」とも言える一作です。

基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報

タイトル(原題)Begin Again
タイトル(邦題)はじまりのうた
公開年2013年(日本公開:2015年)
アメリカ
監 督ジョン・カーニー
脚 本ジョン・カーニー
出 演キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、アダム・レヴィーン、ジェームズ・コーデン ほか
制作会社Exclusive Media Group、Likely Story
受賞歴第87回アカデミー賞歌曲賞ノミネート(「Lost Stars」)

あらすじ(ネタバレなし)

舞台はニューヨーク。音楽レーベルの元敏腕プロデューサー・ダンは、仕事も家庭も失い、人生のどん底にいた。そんな彼がある夜、バーで偶然耳にしたのは、ギター片手に歌う女性シンガー・グレタの声だった。

グレタは、人気ミュージシャンだった恋人に裏切られ、自信を失っていた。しかし、ダンの熱意と提案により、彼女の音楽を”街中で録音するアルバム”という前代未聞のプロジェクトが始まる。

ふたりの出会いが、それぞれの心にどんな変化をもたらすのか——。音楽が紡ぐ新たなはじまりが、静かに、しかし確かに動き出す。

予告編で感じる世界観

※以下はYouTubeによる予告編です。

独自評価・分析

ストーリー

(4.0点)

映像/音楽

(4.5点)

キャラクター/演技

(3.5点)

メッセージ性

(4.0点)

構成/テンポ

(4.0点)

総合評価

(4.0点)

評価理由・背景

物語構造はシンプルながら、音楽と登場人物の心情が繊細に重ねられたストーリーテリングが魅力。特に“街中での録音”というアイデアとその映像演出は新鮮で、音楽と映像が一体化した感動的なシーンが印象に残ります。

ただし、演技面では主役2人の化学反応がやや薄く、恋愛にも友情にも寄り切らない関係性が評価をやや下げています。とはいえ、テンポの良さとサウンドトラックの完成度は非常に高く、エンタメ性とメッセージ性の両立が好印象です。

3つの魅力ポイント

1 – 街全体がスタジオになるユニークな発想

物語の核となるのは「ニューヨークの街角でアルバムを録音する」という発想。この大胆で独創的なアイデアが、映画に躍動感とリアリティを与えています。雑踏や自然音も録音に取り込む演出が、“その場の空気”まで映像と音に閉じ込めるような感覚をもたらします。

2 – 音楽がキャラクターの心情を代弁する

登場人物の感情は、台詞以上に楽曲の歌詞や旋律に込められています。特に「Lost Stars」などの挿入曲は、キャラクターが自分の想いを音に変える瞬間を印象づけており、観る者の心にも静かに響くメッセージとして機能しています。

3 – 二人の関係性が“曖昧”だからこそ深い

グレタとダンの関係は、恋人でも家族でもなく、明確に定義されません。だからこそ、互いに何かを補い、前に進む力を与え合う姿がリアルで美しく描かれています。大人同士の複雑な絆を、軽やかに、でも丁寧に表現している点が本作の真骨頂です。

主な登場人物と演者の魅力

グレタ(キーラ・ナイトレイ)

恋人に裏切られ、自信を失ったシンガーソングライター。繊細で内向的な役柄を、キーラ・ナイトレイが初の“歌う演技”で魅せます。彼女自身の声で歌うシーンは、キャラクターの不器用ながらも真っ直ぐな心を感じさせ、感情が音楽に乗る瞬間のリアルさが際立っています。

ダン(マーク・ラファロ)

業界から見放された元敏腕プロデューサー。粗野で不器用ながらも情熱を失っていない人物像を、マーク・ラファロが見事に体現。人生のどん底から這い上がろうとする等身大の姿に説得力があり、演技の深みが作品全体を支えています。

デイヴ(アダム・レヴィーン)

グレタの元恋人で人気ミュージシャン。物語の“裏切る側”を担う役ですが、実在のアーティストでもあるアダム・レヴィーンの存在感が、キャラクターにリアルな説得力を加えています。ステージ上でのカリスマ性と私生活での脆さの対比が鮮やかに描かれています。

視聴者の声・印象

街の雑音までも音楽にしてしまう演出がとても新鮮!
ストーリーが平坦で少し物足りなさを感じた。
キーラ・ナイトレイの歌声が想像以上に良かった!
登場人物の関係性が曖昧で共感しにくい部分もあった。
「Lost Stars」のシーンだけで泣ける。名曲!

こんな人におすすめ

音楽が人生を変える瞬間を描いた作品が好きな人

『ONCE ダブリンの街角で』や『シング・ストリート』に心を動かされた人

都会の空気感やストリートミュージックに惹かれる人

恋愛よりも“心のつながり”をテーマにした物語を観たい人

控えめだけど芯のある女性キャラクターに魅力を感じる人

逆に避けたほうがよい人の特徴

ハッキリした恋愛描写やドラマチックな展開を期待している人
起承転結が明確なストーリー構成が好みの人
音楽ジャンルに強い関心がない人やミュージカル要素に抵抗がある人
現実的な成功や逆転劇を求めてしまうタイプの人
感情の起伏が大きな作品を好む傾向がある人

社会的なテーマや背景との関係

『はじまりのうた』は一見すると音楽と再生を描いた個人的な物語のように見えますが、その裏側には現代社会が抱えるさまざまな問題や価値観の揺らぎが潜んでいます。

まず注目すべきは音楽業界の商業主義と個人の表現の衝突です。主人公のグレタは、恋人のデイヴがメジャーデビューに際して音楽性を変えてしまったことに失望します。この構図は、アーティストが自身の本質を保とうとするときに直面する“売れるために自分を捨てる”という現実のジレンマを象徴しています。

また、プロデューサーのダンが経験する“業界からの疎外”も現代社会の縮図といえます。年齢や実績があっても、時代の波に適応できなければ排除されるという風潮が、エンタメ業界に限らず多くの業種に共通する問題として共鳴します。

さらに、グレタとダンの関係性にはジェンダーや恋愛観の変化も反映されています。男女の関係性が必ずしも恋愛に収束せず、“人としてどう支え合うか”を描く点は、従来のハリウッド映画にはあまりなかった新しい人間関係のあり方を提示していると言えるでしょう。

そして何より、物語全体に流れるのは「自己肯定感の回復」というテーマです。SNSや評価社会で自己像が揺らぎやすい現代において、自分の声(=音楽)を再び信じ直すという行為は、観る者にとっても深く刺さる普遍的なメッセージとなっています。

映像表現・刺激的なシーンの影響

『はじまりのうた』は、派手なVFXやカメラワークで驚かせるタイプの映画ではありませんが、ニューヨークという街を“もうひとりの登場人物”として丁寧に描写する映像美が光ります。特に、街中でのゲリラ録音シーンでは、自然光や街の音を活かしたリアルな撮影が行われ、まるでその場に自分も立っているような臨場感を味わうことができます。

映像トーンは全体的に柔らかく温かみがあり、ノスタルジックなフィルターがかかっているような印象を受けます。編集も過度な演出は避けられ、音楽のリズムと共鳴する形でテンポよく進行していくため、視覚的にも聴覚的にも非常に心地よい体験が得られます。

また、暴力的・性的・ホラー的な描写はほぼ皆無であり、刺激の強いシーンは一切登場しません。そのため、小さな子どもと一緒に観ても問題なく、感情的に不安定な時期でも安心して視聴できる作品です。

ただし、人によっては展開の緩やかさや感情の抑制された演出が「物足りない」と感じるかもしれません。派手なクライマックスや明快なカタルシスを期待するタイプの視聴者にとっては、心の波が静かすぎると受け取られる可能性があります。

本作の映像演出は、ストーリーやキャラクターの心情に寄り添うための“静かな導線”であり、観る人の心の余白を映し出す鏡のようでもあります。映画というより“音楽付きの風景詩”を体験する感覚が近いかもしれません。

関連作品(前作・原作・メディア展開など)

『はじまりのうた』は原作のないオリジナル脚本による映画であり、シリーズ作品やスピンオフといった直接的な関連作は存在しません。ただし、監督のジョン・カーニーが手がけた他の音楽映画と精神的な繋がりを感じさせる作品群が存在します。

特に2007年公開の『ONCE ダブリンの街角で』は、低予算ながら音楽と恋の繊細な交差を描いた名作であり、本作『はじまりのうた』にも通じる“音楽が人を変える”というテーマが色濃く反映されています。

また、2016年公開の『シング・ストリート 未来へのうた』では、1980年代のダブリンを舞台にバンドを組む少年たちの青春が描かれており、ジョン・カーニー監督の“音楽三部作”とも称されることがあります。時系列的にも制作順としては『ONCE』→『はじまりのうた』→『シング・ストリート』となっており、観る順番に決まりはありませんが、テーマの深化を楽しむなら公開順がおすすめです。

なお、本作に登場する挿入曲「Lost Stars」は映画の枠を越えて注目され、第87回アカデミー賞歌曲賞にもノミネートされるなど、音楽作品としての独立した評価も獲得しています。

類似作品やジャンルの比較

『はじまりのうた』と類似性の高い作品として、音楽を軸に人間関係や再生を描いた映画がいくつか挙げられます。以下はその代表例です。

『ONCE ダブリンの街角で』 同じくジョン・カーニー監督による低予算音楽映画。ストリートミュージシャン同士の交流を描き、ドキュメンタリーのようなリアリズムが特徴。『はじまりのうた』よりもさらに素朴でミニマルな構成が魅力。

『シング・ストリート 未来へのうた』 本作の“音楽三部作”の3作目。10代の少年がバンド活動を通じて自分の道を切り拓く物語で、青春の熱量が前面に出た爽快な作品。『はじまりのうた』よりも明確な成長と変化の物語。

『ラ・ラ・ランド』 夢を追いかけるジャズピアニストと女優の恋愛模様を描いたミュージカル。音楽の比重はより大きく、演出も華やかだが、現実と夢のはざまで揺れる感情という点で共通点がある。

『ラブソングができるまで』 元アイドルと作詞家の女性がラブソングを共作するコメディ。テンポの良い展開と軽妙な掛け合いが特徴で、音楽制作を通じた心の変化という点で共通する。

『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』 父と娘が音楽を通じて絆を深めるヒューマンドラマ。家族愛と独立をテーマにしながらも、街角録音スタイルと温かな余韻は『はじまりのうた』に近いものがある。

これらの作品に共通するのは、音楽が単なるBGMではなく“人生そのもの”として描かれている点です。華やかさではなく、日常の延長にある感情や出会いに焦点を当てた作品群として、『はじまりのうた』はその中心に位置づけられるでしょう。

続編情報

2025年7月時点において、『はじまりのうた(Begin Again)』の続編に関する正式な制作発表や公開予定は確認されていません

ジョン・カーニー監督や主要キャスト(キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ)による続編制作への言及も過去のインタビュー等では確認されておらず、現時点では構想段階すら見えていない状況と考えられます。

また、スピンオフやプリクエルなどの企画、配信予定のコンテンツも存在していません。『ONCE』『シング・ストリート』といったカーニー監督の他作品との“世界観の接続”やシリーズ化もされておらず、本作は単体で完結する独立作品として扱われています。

ただし、2025年6月には日本での10周年リバイバル上映が実施されており、ファンからの再評価と支持を集めています。今後の動向次第では、サウンドトラック再録やドキュメンタリー形式での再訪企画など、何らかの新展開が生まれる可能性はゼロではないでしょう。

現時点では、「続編情報はありません。」が結論となりますが、今後の動きを静かに注視したいところです。

まとめ|本作が投げかける問いと余韻

『はじまりのうた』は、音楽を通じて失われた自分を取り戻し、新たな一歩を踏み出す勇気を描いた物語です。観終わった後、静かに心に残るのは「本当の自分とは何か」「人生のリスタートとはどういうことか」という深い問いです。

ドラマは派手さを抑え、日常の延長線上にあるリアルな感情を丁寧にすくい上げています。そのため、劇的なクライマックスや大きな変化を期待すると物足りなさを感じるかもしれませんが、逆に言えば、静かな共感と自己肯定の余韻を長く味わえる作品とも言えます。

音楽と映像が織りなす詩的な世界は、まるで一篇の美しい詩のように心に染み込み、観る者それぞれの記憶や経験を呼び覚ますでしょう。「人生に迷ったとき、もう一度自分の声に耳を傾けてみてはどうか」というメッセージが、余韻として静かに残るのです。

この映画は、華やかな夢や成功だけでなく、失敗や挫折の中にも価値があることを教えてくれる貴重な一作です。ゆったりとしたテンポの中で心を開き、深い感情の波を感じたい人にこそおすすめしたい作品と言えるでしょう。

ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)

OPEN

本作『はじまりのうた』は、表面上は音楽と再生をテーマにした爽やかな物語ですが、よく見ると複雑な人間関係や自己葛藤の伏線が巧みに張られていることに気づきます。

例えば、グレタとダンの“曖昧な関係性”は単なる友情や仕事のパートナーシップにとどまらず、人生の再出発における依存と自立の狭間を象徴しているとも解釈できます。二人が互いに補い合いながらも完全には融合しきれない距離感は、成熟した大人の人間関係のリアルな表現と言えるでしょう。

また、映画全体を貫く「音楽を通じた自己表現」は、単なる創作活動の枠を超え、自己肯定感や他者との繋がりの回復という深いテーマを孕んでいます。特にラストに向けて、「Lost Stars」が持つ意味は光と影、希望と絶望が混在する人生の象徴として鑑賞者に強い印象を残します。

裏テーマとしては、商業音楽界の現実的な厳しさや、個人の価値が数値化される現代社会の窮屈さへの静かな批評も読み取れます。ダンの落ちぶれた姿とグレタの失望は、音楽業界のみならず、誰もが感じる不安や孤独のメタファーとも解釈できるでしょう。

とはいえ、これらの考察はあくまで一つの見方であり、映画は断定的な答えを提示しません。観る人の心情や経験によって受け取り方が多様に変化するのが本作の魅力でもあります。あなたはどんな“はじまり”を見つけるでしょうか?

ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)

OPEN
君、あの映画の音楽、本当に心に染みたよ。僕、何度も聴き返してしまったよ。
僕もだよ。特にあの歌の部分、お腹が鳴りそうになって集中できなかったけどね。
そう言えば、君は食べることばかり考えているけど、あの静かなシーンもすごく印象的だったよね。心が落ち着く感じで。
うん、静かなシーンはいいけど、次はご飯のシーンをもっと増やしてほしいなって思ったよ。
君って食いしん坊だよね。でも、そのおかげで和んだよ。そういえば、あの登場人物たちの関係性って少し複雑だと思わない?
複雑?じゃあ、僕たちが主演で新しい音楽映画を作ろうよ。主題歌は「にゃんにゃんビート」!
いきなり何を言い出すんだよ君は!全然関係ないじゃないか!
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