『クワイエット・プレイス』とは?|どんな映画?
『クワイエット・プレイス』は、「音を立てたら“死”が訪れる」という異色の世界観を持つサバイバル・スリラー映画です。
視覚ではなく“音”に反応する謎のクリーチャーに支配された世界で、人々は一切の物音を立てずに生き延びようとします。その中でも特に、ある一家の静寂と愛に満ちた日々が描かれます。
ホラー映画でありながら、家族の絆や親の覚悟といったヒューマンドラマ的要素も色濃く、全編を通して緊張感と感動が交錯するのが特徴です。
一言で表すなら、「“音を消して”観る、極限の家族ドラマ」。言葉を超えたサスペンスと感情が、観る者の心を静かに揺さぶります。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | A Quiet Place |
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タイトル(邦題) | クワイエット・プレイス |
公開年 | 2018年 |
国 | アメリカ |
監 督 | ジョン・クラシンスキー |
脚 本 | ブライアン・ウッズ、スコット・ベック、ジョン・クラシンスキー |
出 演 | エミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュープ |
制作会社 | プラチナム・デューンズ、サンデー・ナイト・プロダクションズ |
受賞歴 | 全米映画俳優組合賞キャスト賞ノミネート、サターン賞(脚本賞)受賞 ほか |
あらすじ(ネタバレなし)
ある日突然、音に反応して人間を襲う“何か”によって、世界は一変する。物音ひとつ立てることすら命取りとなった世界で、ある一家は「音を出さない生活」を余儀なくされる。
靴を履かずに歩き、手話で会話し、生活のすべてを沈黙で包む日々。しかし、赤ん坊の誕生を間近に控えた家族には、さらなる試練が待ち受けていた。
彼らは、静寂の中で何を守り、どこへ向かおうとするのか――。
「一切の音が許されない世界」で、人はどう生き延びるのか? 観る者の想像力を刺激し、息を呑むような緊張感が全編を支配するサバイバルスリラーが、いま幕を開ける。
予告編で感じる世界観
※以下はYouTubeによる予告編です。
独自評価・分析
ストーリー
(4.0点)
映像/音楽
(4.5点)
キャラクター/演技
(4.0点)
メッセージ性
(3.5点)
構成/テンポ
(4.0点)
総合評価
(4.0点)
全編にわたって“音を立てない”という極限設定が貫かれており、それがストーリーや演出の軸として秀逸に機能している点は高く評価できます。特に静寂を活かした音響設計と緊張感のある映像は、映画体験そのものに没入感をもたらしました。
一方、物語の展開やテーマ性はややシンプルで、「家族愛」や「生存の本能」といった感情面にフォーカスしているものの、哲学的・社会的深みには欠ける部分もあり、メッセージ性の項目はやや抑えめの評価です。
演者の表現力や無言での芝居は非常に力強く、特にエミリー・ブラントとミリセント・シモンズの演技は印象的でした。全体としては非常にバランスが取れており完成度の高い作品と評価できますが、「歴史に残る傑作」とまでは言い切れないため、あえて総合評価は4.0点としました。
3つの魅力ポイント
- 1 – 静寂が生む極限の緊張感
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本作最大の特徴は、「音を立ててはいけない」というルールが物語と演出のすべてに貫かれている点です。視覚的な恐怖ではなく、聴覚的な制約によって緊張感を生み出すという設定は、観客に常に息をひそめるような感覚を与えます。音の使い方ひとつでここまでスリルを演出できる作品は稀です。
- 2 – “家族”が主役のサバイバル劇
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多くのサバイバルホラーが個人や集団の恐怖に焦点を当てる中で、本作は「家族」という最小単位の共同体にスポットを当てています。とくに親としての葛藤や犠牲、子どもたちの成長が描かれることで、単なるモンスター映画ではない感情的な深みを持った作品となっています。
- 3 – 言葉に頼らない演技力
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セリフの少ない本作では、登場人物たちの表情や仕草、視線の動きといった非言語的な演技が物語を牽引します。エミリー・ブラントやミリセント・シモンズの繊細で力強い表現は、多くを語らずとも観る者に状況と感情を伝え、俳優の力量を感じさせる魅力のひとつです。
主な登場人物と演者の魅力
- イヴリン・アボット(演:エミリー・ブラント)
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アボット家の母であり、家族を守る強さと優しさを併せ持つ存在。妊娠中という過酷な状況でも、命を懸けて家族の安全を最優先する姿は、本作の中でもっとも感情を揺さぶるポイントのひとつ。演じるエミリー・ブラントは、恐怖と母性の入り混じった繊細な感情をセリフに頼らず演じきり、圧倒的な存在感を放っている。
- リー・アボット(演:ジョン・クラシンスキー)
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一家の父であり、サバイバルの知識と技術で家族を支える頼れる存在。感情を表に出すことは少ないが、行動で愛を示す父親像として描かれている。演じたジョン・クラシンスキーは本作の監督でもあり、演出と演技の両面からキャラクターに深みを与えている点が注目される。
- リーガン・アボット(演:ミリセント・シモンズ)
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聴覚に障がいを持つ娘。音を聞くことができないというハンデが、物語上の緊張感とドラマ性を同時に高めている。実際に聴覚障がいのある俳優ミリセント・シモンズが演じており、そのリアルな存在感と静かで芯のある演技は高い評価を受けている。彼女の視点を通して、作品はより深い“音のない世界”を体現している。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
派手なアクションや大量のセリフを求めている人
クリーチャーの正体や世界設定の詳細な説明を期待する人
終始スリル満点の展開を想像している人
ホラー要素が強すぎる映画が苦手な人(本作は静かな恐怖が中心)
サスペンスよりもエンタメ性を重視する人
社会的なテーマや背景との関係
『クワイエット・プレイス』は単なるサバイバルスリラーにとどまらず、現代社会における不安や孤立、親子関係の重圧を象徴的に描いた作品とも解釈できます。
まず、「音を立てたら終わり」という設定は、言葉を発せずに暮らす世界の比喩として非常に示唆的です。“声をあげることが危険”という状況は、戦争や差別、監視社会など、発言すること自体がリスクになる現実世界の状況とも重なります。
また、作品の舞台となる沈黙に包まれた世界は、パンデミック以降の世界を先取りするような静けさと閉塞感を想起させます。人との接触を避け、家族単位で静かに生活する光景は、現代人にとって非常にリアルなものとして映るでしょう。
さらに、妊娠・出産という極めてプライベートな出来事すらサバイバルの対象となる本作は、「子どもをこの世界に迎えることの重み」や「命を育むことの責任」といった深いテーマにも通じています。とくに親として子を守るという無言の覚悟は、多くの親世代にとって強い共感を呼ぶポイントです。
聴覚障がいをもつリーガンの存在もまた、マイノリティの視点を自然に取り入れており、“異なる感覚で世界を生きる人々への理解”を促す意義を持っています。障がいがあることが弱点ではなく、むしろ生存における一つの鍵となる展開は、非常に力強いメッセージと言えるでしょう。
このように、本作はホラーやスリラーの枠を超えて、社会的・文化的背景を想起させる多層的な物語となっており、鑑賞後に深い余韻と考察を与えてくれます。
映像表現・刺激的なシーンの影響
『クワイエット・プレイス』は、そのタイトル通り“静けさ”を映像表現の核に据えた作品です。色彩はやや抑えめで、自然光や影を巧みに取り入れたカメラワークが、静謐で張り詰めた空気感を生み出しています。
特筆すべきは音響設計です。本作ではBGMや効果音を極限まで絞り込み、登場人物の衣擦れや足音、物が触れる音すら観客の神経に直接触れるような繊細なサウンドとして際立っています。リーガンの聴覚障がいの視点が反映された“無音の場面”もあり、視覚と聴覚のバランスが観る者に新たな緊張感をもたらします。
一方で、刺激的なシーンについても一定の注意が必要です。本作にはクリーチャーによる襲撃シーンや、突発的な衝撃描写が含まれており、ホラー描写が苦手な方にとっては精神的に強い緊張を伴う可能性があります。ただし、過度な流血や残酷描写は抑えられており、いわゆる“スプラッター”映画とは一線を画します。
性的描写は一切なく、全体として家族向けの構成を保ちつつも、心理的なサスペンスと驚きで勝負する作品です。妊娠・出産シーンなど、人によっては緊張や不安を強く感じる可能性のある場面もありますが、それらも物語のテーマ性を支える重要な要素として描かれています。
視聴時の心構えとしては、“静寂そのものが恐怖になる”という点を理解したうえで、できるだけ静かな環境と高い音響環境で鑑賞することをおすすめします。音に対する感覚が研ぎ澄まされることで、本作の魅力が最大限に発揮されるはずです。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
『クワイエット・プレイス』は完全オリジナル脚本による作品で、原作は存在しません。そのため、映画独自の世界観とキャラクターがすべてゼロから構築されています。
シリーズとしては、本作を起点とした拡張展開が行われており、以下のようなスピンオフ的作品が存在します。
- 『クワイエット・プレイス:デイ・ワン』(A Quiet Place: Day One) ─ 本作の“スピンオフ”にあたる作品で、本編とは別の登場人物と視点で「怪物が現れた最初の日」を描くプリクエル的内容となっています。観る順番としては、本作を先に鑑賞してから『デイ・ワン』を観ることで、より深く世界観を楽しめる構成です。
また、本シリーズは原作や小説ベースの展開ではなく、映画オリジナルのコンテンツであるため、原作との比較や忠実性を気にする必要はありません。脚本・演出・演技のすべてが映画というメディアに最適化されており、観客が初めて触れる物語として完結した体験ができるのも魅力のひとつです。
さらに近年では、シリーズの人気を受けてゲーム化やテーマパークでのアトラクション化など、映像以外のメディア展開も行われています。たとえば、ユニバーサル・スタジオのホラーナイトでは“クワイエット・プレイスの世界を体験できるホーンテッドハウス”が登場し、世界観を体感できる場として話題を集めました。
このように『クワイエット・プレイス』は一作限りの映画にとどまらず、独自の世界観を活かしたマルチメディア展開によって、さまざまな角度から楽しめるシリーズへと進化しています。
類似作品やジャンルの比較
『クワイエット・プレイス』が持つ「静寂を軸にしたサスペンス」や「家族愛を描いたホラー」という特徴は、他の作品にはあまり見られない独特なものですが、以下のような作品とジャンル的な共通点を持っています。
- 『ドント・ブリーズ』(2016) ─ 音を立てたら命の危機という設定が共通し、「沈黙」×「侵入者」というスリルが際立つ作品。舞台は住宅の中で展開し、空間的な制約も本作と似た緊張感を生み出しています。
- 『バード・ボックス』(2018) ─ 「見たら死ぬ」という設定で、知覚の制限(視覚 vs 聴覚)という共通構造があります。親子のサバイバルや心の成長を描く点も近しく、感情の深さを重視したサスペンスです。
- 『ザ・サイレンス 闇のハンター』(2019) ─ 世界が音を失ったという世界観や、聴覚障がいをもつ少女の存在など、設定面で非常に似ています。やや後発作品であり、『クワイエット・プレイス』の影響を色濃く感じさせる一本。
- 『10 クローバーフィールド・レーン』(2016) ─ 密室の中での人間関係と外の“未知の存在”への恐怖を描いた作品。心理サスペンスとSFの融合という点で共通し、過剰に説明しない語り口も似ています。
- 『ザ・ナイト・ハウス』(2020) ─ 静かな環境と不穏な空気感を武器にしたホラー映画。喪失感や孤独を扱う深いテーマを内包しており、緩やかな展開の中に強い余韻を残す点で通じる部分があります。
いずれも「知覚に制限を与える設定」や「感情とサバイバルの融合」という観点で『クワイエット・プレイス』と親和性が高く、この作品を楽しめた方にはぜひ一度観てほしいラインナップです。
続編情報
『クワイエット・プレイス』は、その高評価と興行的成功を受けて複数の続編・スピンオフが制作・公開されています。以下に、続編情報を4つの観点から整理して紹介します。
1. 続編の有無
本作には明確な続編が存在します。2020年には第2作となる『クワイエット・プレイス 破られた沈黙(原題:A Quiet Place Part II)』が公開され、その後、さらなる続編『A Quiet Place Part III(仮称)』の企画も進行中とされています。
2. 続編のタイトル・公開時期
2020年に公開された続編の正式タイトルは『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』で、前作の直接的な続きとなっています。また、『A Quiet Place Part III』は当初2025年公開予定でしたが、現在は無期限延期となっており、公開日は未定です。
3. 制作体制(監督・キャスト等)
『Part II』の監督・脚本は引き続きジョン・クラシンスキーが務めており、出演者としてはエミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュープらが続投しています。『Part III』もクラシンスキーが深く関与しているとされ、現在も企画開発が継続中です。
4. プリクエル・スピンオフ作品
2024年にはスピンオフ作品『クワイエット・プレイス:デイ・ワン(原題:A Quiet Place: Day One)』が日米同時公開されました。本作は本編とは異なる登場人物と視点で、“怪物が現れた最初の日”を描くプリクエル(前日譚)であり、本編世界の拡張と補完を目的とした構成です。監督はマイケル・サルノスキ、主演はルピタ・ニョンゴ。興行的にも成功を収めており、さらなる派生作の可能性も報じられています。
このように『クワイエット・プレイス』は単なる一作品にとどまらず、シリーズとして継続的に展開されている注目フランチャイズであり、今後の動向にも目が離せません。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『クワイエット・プレイス』は、単なるサバイバルスリラーにとどまらず、「人が言葉を奪われたとき、何が残るのか」という根源的な問いを観る者に突きつけます。音を立てられない世界において、人はどのように感情を伝え、家族を守り、生き抜こうとするのか――その葛藤と静かな強さが、全編を通して力強く描かれています。
本作の印象的な点は、恐怖そのものよりも、「恐怖のなかで何を大切にするのか」というテーマ性にあります。絶望的な状況下でも、新しい命を迎えることを選んだ家族の姿は、人間の希望と覚悟を象徴しており、観客に深い感動と余韻を与えます。
また、音という“当たり前”が奪われた世界での生活は、現代社会のコミュニケーションの在り方や、言葉に頼らない関係性についても考えさせられます。言葉を使わずとも成立する絆、手話による会話、視線での意思疎通――そのすべてが「沈黙の中にこそ本当の感情が宿る」ことを静かに教えてくれます。
観終えたあとに残るのは、ただの恐怖ではなく、“静寂の中にある愛と強さ”への敬意です。そして、そこには「もし自分だったら、家族を守れるか?」「言葉を奪われても、愛は伝えられるか?」という観客自身への問いかけが潜んでいます。
『クワイエット・プレイス』は、恐怖を超えて人間の本質に迫る静かな名作です。静けさの中に響く余韻を、ぜひ感じてみてください。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
OPEN
『クワイエット・プレイス』には多くの伏線や象徴的な演出が散りばめられており、観るたびに新たな発見があります。たとえば、冒頭の末っ子の死は、単なるショック演出ではなく、「音が命取りになる世界」におけるルールの厳しさを観客に強く印象づけると同時に、家族の罪悪感と責任感というテーマを静かに提示しています。
リーとリーガンの関係にも注目したいポイントがあります。リーガンは自分が弟を死なせたと感じており、父の愛情を疑っています。しかし、リーが彼女の補聴器を改良し続けていたことや、最期に「愛している」と伝える場面は、言葉がなくても家族の絆が強く存在していたことを裏付けています。このやりとりは本作屈指の感動的な伏線回収の瞬間です。
また、音に反応するクリーチャーという設定は、物理的な恐怖であると同時に、「社会の目」や「発言できない空気」といった比喩としても解釈可能です。声をあげられない社会への皮肉や、「沈黙のなかで何を選ぶか」が重要だというテーマが内包されているとも考えられます。
そして、最終的にリーガンの補聴器によるフィードバック音がクリーチャーに有効であると判明する展開は、「障がい」という特性が弱点ではなく“武器”になるというメッセージとして非常に象徴的です。これは単なる展開の妙というだけでなく、社会的マイノリティへのまなざしを持った構造的意図とも取れるでしょう。
本作には多くの沈黙、視線、手の動きといった非言語の表現が用いられていますが、それらすべてが「音を立てられない世界」を構築するだけでなく、言葉では伝えられない感情の豊かさをも映し出しています。何が語られ、何が語られなかったのか――その“余白”に込められた意図を探ることで、より深い鑑賞体験が得られるはずです。
ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)
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