『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』とは?|どんな映画?
『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は、アガサ・クリスティ原作の名探偵ポアロシリーズをもとに、ケネス・ブラナーが監督・主演を務めたミステリーホラー映画です。
前作『ナイル殺人事件』から1年後の物語であり、引退していたポアロが再び事件に巻き込まれていく姿を描きます。舞台は水の都・ベネチア。仮面舞踏会の夜、幽霊屋敷と化した館で起こる怪事件に挑むポアロの姿は、これまでのシリーズとは一線を画す「恐怖」や「超常現象」の要素をまとい、新たなジャンル融合を感じさせます。
一言で言えば、「名探偵が“幽霊の噂”に挑む、異色のホラーミステリー」。古典的な推理劇の要素に加え、ベネチアの幻想的で不気味な雰囲気が作品全体を包み込み、観る者を非日常へと誘います。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | A Haunting in Venice |
---|---|
タイトル(邦題) | 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 |
公開年 | 2023年 |
国 | アメリカ |
監 督 | ケネス・ブラナー |
脚 本 | マイケル・グリーン |
出 演 | ケネス・ブラナー、ティナ・フェイ、ミシェル・ヨー、ジェイミー・ドーナン、カイル・アレン ほか |
制作会社 | 20th Century Studios |
受賞歴 | 特筆すべき主要映画賞での受賞歴なし(2025年7月時点) |
あらすじ(ネタバレなし)
第二次世界大戦後のベネチア。探偵業を引退し、静かな余生を送っていたエルキュール・ポアロは、旧友の作家アリアドニから奇妙な依頼を受ける。
舞台は“呪われた館”と噂される古びた屋敷。そこで開かれる降霊会に出席してほしいというのだ。「本当に霊は存在するのか?」ポアロは疑念を抱きながらも参加を決意する。
だが、会の最中に起きた思いがけない“死”。それは単なる偶然なのか、それとも超常的な何かの仕業なのか?
幻想と現実、霊と人間の狭間で、名探偵が挑む不可解な謎。やがてポアロは、闇に潜む真実と向き合うことになる——。
あらすじ(ネタバレなし)
第二次世界大戦後のベネチア。探偵業を引退し、静かな余生を送っていたエルキュール・ポアロは、旧友の作家アリアドニから奇妙な依頼を受ける。
舞台は“呪われた館”と噂される古びた屋敷。そこで開かれる降霊会に出席してほしいというのだ。「本当に霊は存在するのか?」ポアロは疑念を抱きながらも参加を決意する。
だが、会の最中に起きた思いがけない“死”。それは単なる偶然なのか、それとも超常的な何かの仕業なのか?
幻想と現実、霊と人間の狭間で、名探偵が挑む不可解な謎。やがてポアロは、闇に潜む真実と向き合うことになる——。
独自評価・分析
ストーリー
(3.5点)
映像/音楽
(4.5点)
キャラクター/演技
(4.0点)
メッセージ性
(3.0点)
構成/テンポ
(3.5点)
総合評価
(3.7点)
本作は、クラシカルな推理劇にホラー要素を加えるという大胆な試みが印象的で、映像美や雰囲気づくりにおいては高く評価できます。特に、ベネチアの幻想的かつ不気味なロケーションと、館の光と影の使い方が巧みで、視覚的に引き込まれます。
一方で、物語の導入から展開まではスムーズながら、事件の真相に至る流れがやや強引に感じられる点や、メッセージ性がやや薄く、娯楽作にとどまっている印象が否めません。キャストの演技は総じて安定しており、ポアロ役のケネス・ブラナーは相変わらずの存在感でした。
総合的には、シリーズの中でも新たな方向性を模索する一作として意義は高く、実験的要素を評価しつつも、内容の深みに欠ける部分が今後の課題といえるでしょう。
3つの魅力ポイント
- 1 – 異色のホラーミステリー展開
-
本作最大の特徴は、ポアロシリーズとしては珍しい“ホラー”要素を取り入れた点にあります。超常現象や降霊会といった演出が加わることで、単なる推理劇にとどまらず、観客に“恐怖と緊張感”をもたらす異色のミステリーへと進化しています。
- 2 – ベネチアの幻想的な映像美
-
“水の都”ベネチアを舞台にしたことで、画面全体に独特の幻想性と不穏さが漂います。仮面舞踏会や歴史ある館、霧の漂う運河など、ロケーションの魅力を最大限に活かしたビジュアルが作品世界に深みを与えています。
- 3 – 名優たちの個性的な競演
-
ケネス・ブラナーを筆頭に、ティナ・フェイ、ミシェル・ヨー、ジェイミー・ドーナンら多彩な実力派が集結。それぞれのキャラクターが濃く描かれており、事件の真相とともに「人間ドラマとしての奥行き」も楽しめる構成になっています。
主な登場人物と演者の魅力
- エルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)
-
本シリーズの主人公であり、世界的名探偵。引退生活を送っていたが、不可解な降霊会の事件に巻き込まれていく。ケネス・ブラナーは監督も兼任しながら、知性と人間味を併せ持つポアロを重厚に演じ、静かな葛藤や恐怖への疑念を繊細に表現している。
- アリアドニ・オリヴァ(ティナ・フェイ)
-
ポアロの友人であり、有名な推理作家。彼を降霊会へと誘う役割を担う。ティナ・フェイはコミカルな印象を持ちつつも、本作では知的で観察力のあるキャラクターを演じ分け、物語に軽快さと緊張感の両方をもたらしている。
- ジョイス・レイノルズ(ミシェル・ヨー)
-
降霊会を執り行う霊能者。不可解な現象と疑惑の中心に立つ存在として登場する。ミシェル・ヨーは神秘的かつ威厳のある演技で観客を魅了し、真偽の曖昧な人物像を巧みに演じきっている。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
本格的な謎解きやロジカルな推理に特化した作品を期待している方
ホラーや霊的演出が苦手で、現実的なドラマを求める方
スピーディーな展開や派手なアクションを求める方
シリーズ未視聴でポアロに関する前提知識が全くない方
映像の美しさよりもストーリーの起伏を重視する方
社会的なテーマや背景との関係
『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は、一見すると推理劇とホラーを融合させた娯楽作品のように見えますが、物語の背後には第二次世界大戦後という歴史的な背景が色濃く反映されています。
舞台は戦争の爪痕がまだ癒えぬ1947年のイタリア・ベネチア。街は美しさを取り戻しつつある一方で、人々の心には喪失や恐怖、罪の意識といった“見えない亡霊”が取り憑いているかのようです。降霊会という装置を通して描かれるのは、「死者とどう向き合い、生き残った者がどのように前へ進むか」という普遍的なテーマでもあります。
また、科学や理性の象徴とも言えるポアロが、“霊”という非科学的な現象に直面する構図は、戦後の合理主義への揺らぎや、信じるものの喪失という現代的な感覚ともリンクしています。理性と信仰、科学とオカルトのはざまで揺れる人間像が丁寧に描かれており、これは現代社会における情報の多様化や価値観の衝突にも通じるテーマです。
本作のホラー演出は、単なる“怖がらせ”ではなく、トラウマや喪失、心の闇といった個人が抱える問題を象徴するものとして機能しており、「人は本当に過去から解放されることができるのか」という問いを投げかけます。つまり、幽霊の存在そのものよりも、それを見てしまう“理由”や“背景”に焦点が当たっているのです。
こうした深層にある社会的・心理的テーマは、エンターテインメント作品としての枠を超えて、観客の内面にも静かに問いかける力を持っていると言えるでしょう。
映像表現・刺激的なシーンの影響
『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は、シリーズの中でも特に映像演出に力を入れた作品として際立っています。舞台となる古びた館は、光と影のコントラストを巧みに活かした撮影が施され、ろうそくの灯りや月光に照らされた空間が不穏な空気を演出しています。カメラワークも非常に計算されており、突然のカットインや俯瞰ショットによって緊張感を高める仕掛けが随所に見られます。
音響面では、静寂と音の緩急が恐怖を増幅させる要素として用いられています。例えば、沈黙の中で軋む床の音や、不意に響く叫び声などが効果的に使われており、観客の聴覚にじわじわと訴えかけてきます。ホラー映画にありがちな「ドン!」というジャンプスケアよりも、じわじわと忍び寄る不安感を重視している点が特徴です。
刺激的な描写については、血や暴力のシーンは限定的であり、過度にショッキングな表現は抑えられています。しかしながら、閉所・暗所・溺水・心霊現象を想起させる場面が多いため、恐怖に敏感な方にはやや緊張感が高まる時間帯が続く可能性があります。
性的描写は皆無で、全年齢層に配慮された作りとなっている一方で、心理的な緊張や不安を誘う演出が物語の核心に深く関わっているため、感受性の高い視聴者には精神的な影響があるかもしれません。
総じて、本作は視覚的・聴覚的に緻密に設計された演出によって、ミステリーの中にホラーの空気を溶け込ませることに成功しています。ただし、ホラー耐性に自信のない方は事前に雰囲気を確認するなど、心構えを持って視聴することをおすすめします。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は、ケネス・ブラナーが監督・主演を務めるポアロ映画シリーズの第3作にあたります。シリーズは以下の順で公開されています。
①『オリエント急行殺人事件』(2017年)
ポアロが列車内で発生した密室殺人事件を解決する古典的名作。映画化にあたり豪華キャストを揃えた演出が話題に。
②『ナイル殺人事件』(2022年)
クルーズ船を舞台に、三角関係の愛憎劇と連続殺人を絡めた物語。ベネチア編へとつながる雰囲気が随所に表れています。
③『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』(2023年)
本作。ホラー要素を前面に出した異色作として、シリーズに新たな可能性を提示しています。
これらの作品はすべて独立した事件を扱っているため、どの作品から観ても楽しめる構成になっています。ただし、ポアロの性格や背景の変化に注目したい場合は、公開順に観ることでより深くキャラクターを理解できます。
また、本作はアガサ・クリスティの小説『ハロウィーン・パーティ』(1969年)を原作としていますが、映画では舞台設定や登場人物、展開が大きく変更されています。原作ではイギリスの田園地帯が舞台だったのに対し、映画は幻想的な水の都ベネチアに置き換えられ、よりホラー色が強調された構成になっています。
その他のアガサ・クリスティ原作作品も数多く映像化されており、ポアロシリーズやミスマープル作品、そして『そして誰もいなくなった』『検察側の証人』などの名作群も世界中で親しまれています。
類似作品やジャンルの比較
『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は、ミステリーとホラーの要素が融合した珍しい作品です。同様のジャンルを持つ他作品と比較することで、本作の個性がより際立って見えてきます。
『オリエント急行殺人事件』(2017年)/『ナイル殺人事件』(2022年)
同じくケネス・ブラナー主演・監督によるポアロシリーズ。どちらも古典的な密室殺人を題材としており、「謎解きの醍醐味」や「豪華なロケーション」といった共通点があります。一方で、『ベネチアの亡霊』はホラー演出が追加されており、シリーズ内でも特に異質な仕上がりです。
『そして誰もいなくなった』
同じアガサ・クリスティ原作で、孤島に集められた登場人物たちが一人ずつ消えていくという物語。密室劇とサスペンスの極致とも言える構成で、閉鎖空間の緊張感や心理戦が好きな人には強く響く作品です。
ジョン・ディクスン・カー作品(例:『曲がった蝶番』『火刑法廷』など)
「幽霊の仕業か?人間の犯行か?」というテーマを得意とする作家であり、本作と同様にオカルトと合理性の対立を描きます。不気味な雰囲気の中に、論理的な解決が用意されている点が共通しています。
『シャッター アイランド』(2010年)
ミステリーと心理サスペンスを融合した映画で、精神的な不安感や幻想的な演出が本作と通じるものがあります。「現実と虚構の境界が曖昧になる」感覚を楽しみたい人におすすめです。
これらの作品に共通するのは、「密室性」「幻想」「心理的不安」「予測不能な展開」といった要素。『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は、それらをホラーの手触りで包み込み、より感覚的に訴えかける新しいミステリー体験を提供しています。
続編情報
『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は、ケネス・ブラナー主演・監督によるポアロシリーズ第3作として制作されました。現時点(2025年7月時点)では、公式に発表された次回作(第4作)のタイトルや公開時期は未定です。
ただし、制作陣および原作管理者であるアガサ・クリスティ財団のジェームズ・プリチャード氏は、インタビューなどで「ブラナー監督が続ける意志を持つなら、ポアロの物語にはまだ多くの素材がある」と発言しており、今後の展開への前向きな姿勢が見受けられます。
また、『そして誰もいなくなった』や『検察側の証人』など、他のクリスティ作品の映像化プランも検討されているとされており、スピンオフや別シリーズとのクロス展開が行われる可能性も否定できません。
続編制作の具体的な情報(制作中、タイトル、配信予定など)は現時点で確認されていませんが、ブラナーによるポアロ像が高く評価されていることから、今後も新作が発表される可能性は十分にあると考えられます。
現時点では「続編の構想は存在するが、公式発表や詳細情報は未定」という状態です。最新情報に注目しながら待つのが良いでしょう。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は、名探偵ポアロという“合理の象徴”が、不可解で非論理的な出来事に直面するという構造そのものに、深い問いが内包された作品です。「人は本当にすべてを説明できるのか?」「理性では割り切れない現実もあるのではないか?」というテーマは、現代社会においてもなお普遍性を持っています。
ミステリーとホラーという一見相反するジャンルを融合させたこの映画は、観客の感情にも二重の刺激を与えます。謎解きによる知的快感と、不気味な空間演出による情緒的な緊張。その両方を体験することで、視聴者は単なる“事件の解決”ではなく、「人間の不安や喪失にどう向き合うか」という、より根源的な問いに導かれるのです。
また、映像面ではベネチアという幻想的なロケーションを巧みに活かし、どこか夢と現実のあいだにいるような感覚を覚えます。特に仮面舞踏会のシーンや降霊会の演出は、現実のようでありながら非現実的な、“現実の奥に潜むもう一つの世界”を可視化しているかのようです。
作品を観終えた後、私たちの中には「信じるとは何か」「見えないものとどう付き合うか」といった、漠然とした問いが残ります。それは決してすぐに答えが出るものではありませんが、ポアロという論理の象徴がそれに向き合ったように、私たちもまたそれぞれの現実と向き合って生きていくしかない——そんな静かなメッセージが余韻として残るのです。
『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は、単なる推理映画にとどまらず、「人間の心の深部」を探るための装置として機能する、静かで奥深い作品でした。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
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本作で最も注目すべき点は、ポアロ自身が「自分の信念を疑う」という心理的葛藤に立たされる構造です。序盤では一貫して霊的な存在を否定していた彼が、事件を追う中で理屈では説明しきれない出来事に直面し、その揺らぎが表情や行動に表れ始めます。
降霊会のシーンで登場する少女の声や、鏡越しに見える影、そして水死体のビジョン——これらの描写は、物理的な存在としての幽霊というよりも、登場人物たちの“内なる罪悪感やトラウマ”が視覚化されたものとして読み解くことができます。つまり、幽霊は実在するかどうかではなく、「心の奥にある未解決の痛みの象徴」として描かれているのです。
犯人の動機に関しても、“霊の力を借りた”と語られる場面がありますが、これは裏を返せば「自分の行動に責任を持ちたくない心理」の表れとも取れます。ポアロはそれを暴き、真実を突きつけるわけですが、同時に「真実が人を救うとは限らない」という事実も痛感しているように描かれます。
また、本作の終盤でポアロが再び社会との接点を持とうとするラストは、「孤独な観察者」から「他者と痛みを共有できる存在」への変化を示していると考えられます。これはシリーズを通して描かれてきた“ポアロの内面成長”の一端とも言えるでしょう。
すべてを論理で割り切ることの限界。そして、人は見えないものに意味を求めずにはいられない存在であるということ。本作はその問いを静かに投げかけ、「真実と癒やしは必ずしも一致しない」という苦い余韻を残します。
ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)
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