『レ・ミゼラブル』とは?|どんな映画?
『レ・ミゼラブル』は、フランスの文豪ヴィクトル・ユゴーによる不朽の名作を原作とした、壮大な人間ドラマを描くミュージカル映画です。
19世紀のフランスを舞台に、貧困、差別、愛と赦しというテーマを軸に、元囚人ジャン・ヴァルジャンと彼を追う警官ジャベール、そして彼らを取り巻く市井の人々の人生が交錯していきます。
本作の魅力は、台詞のほとんどが歌で構成された“全編ミュージカル”という大胆なスタイルと、豪華キャストによる魂のこもった演技・歌唱にあります。
社会の底辺からはい上がろうとする人々の苦悩と希望を、壮麗な音楽と映像美で綴る感動作。まさに「すべての人に希望と問いを投げかける、時代を超えた叙情詩」と呼ぶにふさわしい映画です。
基本情報|制作・キャスト/受賞歴・公開情報
タイトル(原題) | Les Misérables |
---|---|
タイトル(邦題) | レ・ミゼラブル |
公開年 | 2012年 |
国 | イギリス/アメリカ |
監 督 | トム・フーパー |
脚 本 | ウィリアム・ニコルソン (原作:ヴィクトル・ユゴー) |
出 演 | ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、エディ・レッドメイン、サマンサ・バークス |
制作会社 | ワーキング・タイトル・フィルムズ、キャメロン・マッキントッシュ・プロダクションズ |
受賞歴 | 第85回アカデミー賞:助演女優賞(アン・ハサウェイ)、録音賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞 受賞 ほかゴールデングローブ賞4部門ノミネート・3部門受賞 |
あらすじ(ネタバレなし)
19世紀フランス。パンを盗んだ罪で19年間の投獄生活を送ったジャン・ヴァルジャンは、仮釈放後に厳しい現実と向き合いながらも、ある出会いをきっかけに新たな人生を歩む決意をする。
一方で、彼の過去を知る警官ジャベールは、執拗にヴァルジャンの行方を追い続ける。
時代は革命の波に揺れ、貧困や不正義に苦しむ人々の声が街にあふれ出す中、彼は一人の少女との約束を胸に奔走する。
「正しさ」とは何か?人は変われるのか?──壮大な人間ドラマの幕が、静かに、しかし力強く上がる。
予告編で感じる世界観
※以下はYouTubeによる予告編です。
独自評価・分析
ストーリー
(4.0点)
映像/音楽
(4.5点)
キャラクター/演技
(4.5点)
メッセージ性
(4.5点)
構成/テンポ
(3.5点)
総合評価
(4.2点)
原作のスケールを忠実に再現した構成と、全編を通じて繰り広げられるミュージカルパートの完成度は極めて高く、音楽・演技の両面で圧倒される出来栄えでした。特にアン・ハサウェイのパフォーマンスは圧巻で、観る者に深い感情の揺さぶりを与えます。
一方で、2時間半を超える長尺により一部でテンポの緩さや疲労感を覚える可能性がある点、また原作の重厚さを消化しきれていないと感じる層も一定数存在します。よって、映像や演技、メッセージ性は高得点ながら、構成面でやや抑えた評価としました。
3つの魅力ポイント
- 1 – 圧倒的な歌唱演技
本作最大の特徴は、セリフではなく全編を通して歌で物語が進行するという構成です。特にアン・ハサウェイの「夢やぶれて(I Dreamed a Dream)」は、その表情と歌声だけで観る者の心を鷲掴みにする圧巻のシーン。現場録音によるリアルな感情の揺らぎも、他のミュージカル映画とは一線を画しています。
- 2 – 社会的テーマと普遍性
貧困、差別、正義、赦し──『レ・ミゼラブル』が描くテーマは、19世紀の物語でありながら現代社会にも深く通じる問題ばかりです。特定の国や時代に縛られない普遍性があり、観る者一人ひとりに「自分だったらどうするか」と問いかける力を持っています。
- 3 – 重厚な世界観と美術
ロンドンのセットをはじめとした舞台美術の緻密さ、衣装のリアリティ、照明と色調による情感表現など、視覚面での完成度も極めて高い作品です。映像から伝わる“時代の息づかい”は、ミュージカル映画であることを忘れるほどの没入感を生み出しています。
主な登場人物と演者の魅力
- ジャン・ヴァルジャン(ヒュー・ジャックマン)
-
元囚人として過酷な人生を歩みながらも、他者への赦しと献身を選び取っていく主人公。ヒュー・ジャックマンは、肉体的な存在感と繊細な感情表現を兼ね備えた演技で、ヴァルジャンの内面の変化を力強く描きました。とくに歌声に込められた祈りのようなトーンは、キャラクターの人間性を強く印象づけます。
- ファンティーヌ(アン・ハサウェイ)
-
愛娘のために身を削って生きるシングルマザー。アン・ハサウェイは、髪を切り、実際に体重を減らすなどの役作りを徹底し、壮絶な人生を儚くも鮮烈に体現。名曲「I Dreamed a Dream」の圧倒的熱演は、第85回アカデミー賞助演女優賞に輝くにふさわしいものです。
- ジャベール(ラッセル・クロウ)
-
法と秩序を信じ、ジャン・ヴァルジャンを執拗に追い続ける警官。ラッセル・クロウは、頑なで不器用な正義の化身としてのジャベールを、重厚な存在感と独特の歌唱で表現。対比的な立場のヴァルジャンと対になることで、正義と赦しの対話を深く掘り下げる存在となっています。
視聴者の声・印象













こんな人におすすめ
逆に避けたほうがよい人の特徴
テンポの良い展開や爽快感を求める人
ミュージカル形式が苦手な人(特に全編が歌で進行する点)
シンプルで明快なストーリーを好む人
重いテーマや悲劇的な展開が苦手な人
映画に「娯楽性」や「軽さ」を求めている人
社会的なテーマや背景との関係
『レ・ミゼラブル』は、19世紀フランスの政治的・社会的混乱を背景に、貧困、格差、不正義、そして人間の尊厳という重厚なテーマを扱っています。物語の軸となるジャン・ヴァルジャンの人生は、まさに「法によって裁かれた人間が、赦しと再生の機会を得られるか」という問いかけそのものです。
当時のフランスでは、ナポレオン戦争や王政復古を経て社会構造が激変しており、労働者階級や女性、孤児といった社会的弱者が制度から取り残されていく状況がありました。ヴァルジャンやファンティーヌの境遇は、まさにその“影”を体現しています。
また、本作は「正義とは何か?」という普遍的なテーマにも深く切り込んでいます。警官ジャベールが体現するのは“絶対的な法の正義”であり、それに対峙するヴァルジャンの“人間としての慈悲と柔軟性”は、時代や制度の壁を越えて観る者に強い問いを投げかけます。
こうしたテーマは、現代社会においてもなお根深い問題として存在しています。貧困や格差、再犯の壁、社会的排除といった課題は、今日の日本社会にも少なからず共通する構造を持っており、本作を通じて「いま自分たちの社会はどうか」という視点を持つきっかけとなり得るでしょう。
さらに、レ・ミゼラブルの舞台装置として描かれる“革命”も重要な意味を持ちます。若者たちが自由と平等を求めて立ち上がる姿は、単なる歴史の再現ではなく、時代を超えて繰り返される“声なき者たちの叫び”の象徴です。それはSNSや分断社会の現代にも通じる「変革への希望」を暗示しているのかもしれません。
映像表現・刺激的なシーンの影響
『レ・ミゼラブル』は、19世紀のフランス社会をリアルに描写するため、映像美と演出に極めて高いこだわりが見られる作品です。特にロケーションやセット、美術、衣装、光の使い方に至るまで、時代考証と美的演出が高い次元で融合しており、観る者を一気に作品世界へと引き込みます。
色調は全体的に抑えめで、寒色系が多く使われており、登場人物たちの苦境や社会の陰鬱さを視覚的に強調しています。一方で、革命の場面や感情の爆発に合わせて赤や金などの強い色彩が差し込まれることで、映像が“心情の延長線”として機能している点も注目すべき演出です。
音響面では、生歌収録という手法が用いられており、スタジオ録音とは異なる臨場感と感情の揺れがそのままスクリーンに反映されています。これは従来のミュージカル映画とは一線を画す要素であり、「演技と歌の一体感」を生む大きな要因となっています。
一方で、刺激的なシーンについても言及しておく必要があります。本作には露骨な暴力表現や流血描写は多くありませんが、売春・貧困・死といった重いテーマが直接的に描かれる場面が含まれています。特にファンティーヌが社会から追い詰められていく過程は、心に刺さるリアルな描写となっており、精神的に負担を感じる方もいるかもしれません。
また、革命の場面では銃撃戦や死の描写もあり、悲劇的な展開が視覚的・感情的に重くのしかかる構成になっています。ただし、これらの描写は決してショック演出のためではなく、物語のテーマを正面から捉えるために必要な要素として丁寧に扱われています。
総じて、本作は「目を背けたくなる現実」をあえて真正面から描く作品です。鑑賞にあたっては、心の余裕があるときに集中して観ることをおすすめします。観終わったあと、静かな余韻とともに“何かを問いかけられている”ような感覚を抱くことでしょう。
関連作品(前作・原作・メディア展開など)
『レ・ミゼラブル』は、ヴィクトル・ユゴーによる1862年の小説が原作であり、これまでに数多くの形で映像化・舞台化されてきました。
もっとも有名なのは、1980年代に初演されたミュージカル版で、現在でも世界各国で上演が続くロングラン作品です。原作小説をベースに、音楽と歌によって構成を再構築しており、映画版のストーリーはこのミュージカルに基づいています。そのため、順番としては「小説 → ミュージカル → 映画(2012年)」という流れになります。
原作小説は非常に長大で、政治、歴史、宗教など多岐にわたるテーマが緻密に描かれています。一方で、ミュージカル版や映画版はそれを「人間ドラマ」に焦点を絞って再構成しており、物語のテンポや感情表現に重きを置いた演出が特徴です。原作と比べると簡略化されている部分もありますが、情感やメッセージの核心はしっかりと受け継がれています。
映像化作品としては、1998年版のフランス映画や、BBCによる2018年のテレビドラマシリーズ(全6話)などもあり、特にドラマ版は原作に忠実な構成で、より詳細な背景描写を楽しむことができます。
その他にも、子供向けに編集されたアニメーションや、漫画版、コミカライズなど幅広い層に向けたメディア展開が行われています。これらは作品世界への導入としても親しみやすく、初めて『レ・ミゼラブル』に触れる人にもおすすめです。
類似作品やジャンルの比較
『レ・ミゼラブル』は“全編ミュージカル形式の重厚な人間ドラマ”という特異なジャンルに属しており、いくつかの作品と構造やテーマの共通点があります。
『オペラ座の怪人』(2005年)は同じく原作小説をベースにしたミュージカル映画で、舞台芸術の美しさと哀しい愛の物語が融合した作品です。『レ・ミゼラブル』と同様に登場人物の内面を歌で表現しており、音楽で心情を描く手法に共鳴します。
『グレイテスト・ショーマン』(2017年)は主演もヒュー・ジャックマンであり、楽曲を通して観客の感情を鼓舞する演出が特徴です。ただし、『レ・ミゼラブル』が歴史的・社会的テーマに重きを置いているのに対し、本作はエンタメ性とポジティブなメッセージを前面に押し出しています。
『戦争と平和』(2016年、BBCドラマ)は、同じく歴史小説を原作とした大河的な人間ドラマであり、戦争・愛・道徳の間で揺れる人物たちを描いています。音楽劇ではないものの、社会構造と人間の尊厳に迫るテーマ性で重なる部分があります。
また、フランス革命や社会変革を題材にした作品としては、実写版『ベルサイユのばら』や、近年のフランス映画『黒いチューリップ』(2024年)が挙げられます。後者は風刺と笑いを交えながら革命の混沌を描くという点で、悲劇的な『レ・ミゼラブル』とは対照的なアプローチを取っています。
「これが好きならこれも」的な観点では、社会性×音楽表現×人間ドラマという三拍子が揃う『イン・ザ・ハイツ』や『RENT』も挙げられます。音楽ジャンルや演出スタイルは異なりますが、人間の尊厳や希望に焦点を当てる点では共通しており、ミュージカル好きにはおすすめです。
続編情報
『レ・ミゼラブル』に関する正式な「続編」と呼べる作品は現時点では存在しないものの、新たな視点から再構築されるリメイクやスピンオフ的な作品の制作が進行中です。
1. 続編の有無・公開時期
2025年にフランスで撮影予定の映画『Les Misérables』の新バージョンが、2026年11月11日の公開を目指して制作中です。これは2012年版の直接的な続編ではなく、新たな演出・キャストでの再映画化となります。
2. タイトル・形態
正式タイトルは未定ながら、「Les Misérables(2026)」または「レ・ミゼラブル:リボーン」などと報じられるケースもあり、原作の新解釈による再構築型リメイクとなる見込みです。
3. 制作体制
監督は『ジャスティスの影』などで知られるフレッド・カヴァイエ。キャストにはヴァンサン・リンドン、タハール・ラヒム、カミーユ・コッタンらが名を連ねており、現代の視点で描き直す重厚な作品として注目を集めています。
4. プリクエル・スピンオフ情報
ジャン・ヴァルジャンの若き日を描くスピンオフ映画『Jean Valjean』も制作中と報道されています。これはプリクエルに近い構成で、彼がどのようにして“赦しを求める者”へと変化していったのかを掘り下げる新たな視点の物語です。
なお、いずれの作品も原作の再解釈やスピンオフという位置づけであり、2012年版の直接的な物語の続きではありませんが、『レ・ミゼラブル』という作品世界の拡張として期待されています。
まとめ|本作が投げかける問いと余韻
『レ・ミゼラブル』は、単なる歴史劇やミュージカル作品にとどまらず、人間がどう生き、どう赦され、どう変わっていくかという深遠なテーマを問いかけてきます。
ジャン・ヴァルジャンの人生を通して描かれるのは、「人は過去から自由になれるのか」「正義とは誰の視点なのか」といった普遍的な命題です。彼の行動は時に葛藤を孕みながらも、人間らしい弱さと力強さを併せ持ち、その姿は観る者の心に深く残ります。
また、ファンティーヌや革命を夢見る若者たち、法の番人ジャベールといったキャラクターたちの物語も、それぞれに異なる“正しさ”と“痛み”を抱えており、それが物語全体に奥行きを与えています。
本作の余韻は、映画を観終えた後にもなお消えることがありません。重くのしかかる現実に向き合ったうえで、それでも人は変われるという希望を提示しているからこそ、「自分だったらどうするか」「自分にできることは何か」という問いが静かに心に灯り続けるのです。
音楽の力、演技の迫力、そして物語の持つ魂──そのすべてが融合して生まれたこの映画は、人生の中で一度は向き合っておくべき作品だといえるでしょう。
きっとあなたも、この映画が終わった後の静けさの中で、言葉にならない感情と向き合うことになるはずです。そしてその余韻こそが、『レ・ミゼラブル』という物語が私たちに残す、最大の贈り物なのかもしれません。
ネタバレ注意!本作の考察(開くと見れます)
OPEN
『レ・ミゼラブル』は一見すると“善と悪”“貧困と富”といった対立構造で語られる物語ですが、実はその本質は「人間の中にある複数の正義の衝突」にあります。
ジャン・ヴァルジャンとジャベールの関係は、単なる追う者・追われる者ではなく、それぞれの価値観が極限までぶつかり合う対比構造を持っています。ジャベールの最後の選択は、「法」しか信じられなかった彼が、ヴァルジャンの“慈悲”という未知の価値観に直面したことによるアイデンティティの崩壊の象徴と言えるでしょう。
また、ファンティーヌの過酷な転落や、民衆の貧しさは単なる背景ではなく、社会構造そのものが個人の人生をどう圧迫するかを描いたシステム批判でもあります。貧困に苦しむ人々の中にこそ“正義”があり、それが可視化されるのが革命の場面です。
コゼットやマリウスといった若い世代のキャラクターは、旧世代が築いた価値観や傷の中で育ちながらも、新たな生を模索していく存在として描かれています。彼らの恋愛や未来への希望は、物語に「継承と再生」のテーマを加えており、それがヴァルジャンの贖罪の旅を“救済”へと昇華させる鍵にもなっています。
さらに象徴的なのは、ヴァルジャンの最後の場面。教会の窓から差し込む光、祈るような表情、そして静かに彼を迎え入れるファンティーヌとエポニーヌの姿。これは単なる“死”ではなく、人生を賭して赦しを体現した者への祝福として演出されており、宗教的な救済の比喩とも解釈できます。
こうした深層に潜むモチーフや象徴は、観る者によって多様な受け取り方ができる構造になっており、何度も繰り返し観ることで新たな発見がある作品です。断定せずとも、「正義とは何か」「赦しとは何か」という問いを受け止めることが、この物語を読み解く最大の鍵かもしれません。
ネタバレ注意!猫たちの会話(開くと見れます)
OPEN




















